腐臭湧く真実

斑 まだら

「捜査権が公安に移るってどういうことですか?」

「そのままの意味だ…捜査本部も解散になる」


『㈱ I 電気連続銃殺事件捜査本部』の紙が乱暴に剥がされ、部屋が片づけられていく。


「非公開捜査になるんですね…」

「そうだ…動くのは公安でも内部処理専門の班だそうだ」

「これだけ大っぴらに騒がれてるんですよ」

「そうだ…だがマスコミに出していない情報が多いのも事実だ」

「片山のことですか…」

「そうだ…容疑者…いや間違いなくコイツだ」

「じゃあなぜ?」

「知らんよ!! 私だってはらわたが煮えくり返る思いだ」


 長机を蹴飛ばす本部長の気持ちを察した俺は、部屋を後にした。


 3件目の事件で『片山カタヤマ タカシ』以外の容疑者は外された。

『ワタベ・マユミ』の甥であり、彼女との確執がもとで職を失っている。

『イシワタリ・アツシ』の上司であり。

『カセ・コウジロウ』の部下であった。

『ミツダ・シゲキ』と社内での関係は良好であったようだが…。


 総じて『片山 崇』という男は、傲慢であり短気、仕事はそれなりに熟すが、協調性が欠如しており、周囲から疎まれている。

 社内の評価の多くは、そんな感じでまとめられている。

 一部の人間には好かれてはいたようだが、特に個人的な付き合いも無い。


 孤立しがちな条件が揃っていたという感じは受けた。


 『ワタベ・マユミ』への暴言を咎められて、『㈱ I 電気』を一度は解雇されているのだが、その前後のやりとり全てを録音しており、このことを予想した直後から、心療内科でうつ病の診断を取り、弁護士を雇い解雇を無効にしている。

 退職金とは別に、和解金で示談しているが…その直後に『ワタベ・マユミ』を殺害している。

 その後、2ヶ月で6人を銃殺だ。


『片山 崇』に辿り着くのに、多くの日数は必要なかった。

『ワタベ・マユミ』は親戚との折り合いが悪く、親戚付き合いは皆無と言っていい。

 相当、嫌われていたようだ。

 娘は現役 風俗嬢。

 息子は恐喝で新聞に載るほど、本人も男癖が悪く、離婚歴2回。

 この時点での容疑者はかなり多かった。

 絞り込みが後手に回ったとはいえ、『㈱ I 電気』絡みで絞り込むと、すぐに対象は狭まった。


 そもそも…殺し方が尋常じゃない。

 強い怨恨、それ以外のナニモノでもない。


 マスコミが騒ぐように、日本の犯罪史に残るであろう惨殺事件。

 引っ張るのは簡単だった…はず…。

 なぜか、許可が下りない。

 時間だけが過ぎていく…。


 そして…今日の捜査中止命令。

 この男に何があるというのだろう…。

 警察が隠したいナニカがあるのだ。

 公には出来ない恥となる部分、それに『片山 崇』は関わっているということだ。


 俺はロッカーを思い切り殴りつけた。


 そう…この事件は闇に葬り去られることが今日、決まったわけだ。


 マスコミ…事件の関係者にも箝口令が布かれるはずだ。

 静かに世間から消えていく事件。


 都市伝説にでもなるのだろうか…ネットの中だけで…語られる虚構と真実。

 まだら模様のその裏に隠された事件となった。

 事件が終息するまでに、さらに3名の被害者を出した。

 日本犯罪史上でも5指に入るであろう怨恨による大量殺人。

 この事件が掘り起こされることは、もうないのだろう。


 俺は、警察官を辞職した。

 個人的に、この『片山 崇』という男を追ってみようと思う。

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