巡 めぐり

「この事件に使用されている銃が…あの時の銃と一致したという報告に間違いないね」

「はい…」

「そうか…」


 世界初の毒ガステロ。

 それは日本で起こった悲劇。

 日本はテロ対策が遅れている…そんなことはない。

 この日本こそテロ大国であり、先進国なのだ。


 この悲劇のテロは、日本のカルト教団が起こした出来事だった。

 多くの人は無関係だと思っているのではないだろうか…。

 それは大きな間違いだ。


 この教団は、活動資金として、LSDという幻覚剤を精製しチャイニーズマフィア、暴力団に卸していた。

 強烈な幻覚作用を引き起こすLSDは、若者を中心に広がっていく…。

 当然、警察も枝葉を枯らすように末端から芯を目指すわけだが、なかなか芯には到達できなかった。


 それどころか、確信に触れる捜査員、関係者は消される、あるいは取りこまれるといった負の連鎖を断ち切れない日々が続くことになる。

 くだんの拳銃も、そんな捜査員の所持品だった。


 捜査員は、家族を人質に取られていた。

炎明エンメイ』 中国人であり、仕事を求めて日本へ来日した男。

 就労ビザが切れた『炎明エンメイ』はチャイニーズマフィアを介して、この教団と繋がりを持ってしまった。

 地方で職を紹介されて、昼間はレストランの厨房でアルバイト、週末はカンフーの教えながら小学生の娘と2人質素に暮らしていた。

 だが…当然、マフィア側の見返り要求は安くない。

 彼は、依頼されるとLSDを指定の場所へ運ぶという末端の運び屋をやらされていた。

 一度、関係を断ち切って、逃げようとしていた。

 そして警察の捜査員と接触を持とうと動いた矢先、学校から帰宅した娘のランドセルの中に

『我警告』と書かれた紙が入っていた。

 それを見た『炎明エンメイ』は、娘を抱きしめ泣いたという。


 LSDの現物と情報を警察に流そうとしていた彼が接触を試みた捜査員は、急に連絡を絶った『炎明エンメイ』を訪ねる。

 そして…そこで教団幹部に出会ったのだ。

 彼は、拉致され妻と娘を人質に取られた。

 常に教団、マフィアの監視が付く生活。

 職を辞することも許されず、情報だけを吸い取られる日々。

 時には警察に偽の情報を流すこともあり、疑われ始めると、捜査から外された。

 当然、教団・マフィアからも用済みとされたが、最後の仕事として依頼されたのが『炎明エンメイ』とその娘を殺害すること…。

 交換条件は、自身の家族の安全である。


炎明エンメイ』は、すでに教団から危険視されていたのだ。

 いつ裏切ってもおかしくない、なぜ娘を?

 監視役の教団員がその娘を強姦してしまった。

 それを知った『炎明エンメイ』は、その教団員を殺してしまう。

 その報復…。

 そして、この捜査員を殺し屋として雇うため。


炎明エンメイ』の目の前で娘は犯された。

 マフィアに捉えられた2人は、彼らのオモチャだった。

 犯したのは捜査員…彼もまた、オモチャであった。


 捜査員は、パンツも履かないまま、銃口をマフィアに向けて撃ち殺した。

 その後で、『炎明エンメイ』に銃を渡した。

 銃を受け取った『炎明エンメイ』は、まず捜査員を撃って…その後、自分の娘を撃った…。


 そのまま姿を消した『炎明エンメイ』は、数日後、別の捜査員に逮捕される。

 事件に辞職前の警察官、それも現職公安の刑事が深く関与している事実を隠すために事件は公にはされないまま。

炎明エンメイ』は本国へ強制送還となって事件は闇の中へ沈んでいった。


 そして拳銃は、チャイニーズマフィアの預かりとなって回収されたのだ。

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