第34話 最後の仕事

 ボクは、自分の頭に銃口を当てた。

 もう…皆、消えてしまった。

『僕』も『私』も『俺』も…。

 皆、ボクで…皆、ボクには出来ないことをやってくれた。

 決して交わることのないボク達だったけど、いいチームだったと思う。

 他人でありながら、仲間でもあり、友達でもあった。

 交わることは無かったけど、家族なんかより、強い絆はあった。


 不思議な感覚だった…。

 1人…また1人と消えていくのが解るんだ。

 その都度、「さよなら…ありがとう」と呟いては涙を流した。

 気付けば、鏡の前で泣いている『ボク』…自分がどんな顔をしているか、もう思い出せない。

 随分、長い間、自分の顔なんて見ていない気がする。

 ずっと…ず~っと…とても…とても長い間、夢を観ていたような気がする。


 消えていくのが解る…それは目覚める刻が近いことを示している。

 夢の中で、夢を自覚する直前の悪寒がボクの中から湧き上がる。

 バラバラだったパズル絵が少しずつ見え始める、それは嬉しいことじゃない。

 終わりを悟る瞬間なのだ。

 意識が現実に戻される恐怖。


 ボクは、眠っていたんだろうか…いつから眠った…。

 目醒めなんて訪れなくてもよかった。

『ヨーコ』も、もういない…この現実にボクが立って歩く意味があるように思えない。


 でも…ひとり…またひとり…ボクの中に還ってくる。

 ボクからわかれた、欠片が…戻ってくる。


 間違ったのかな…。

 哀しみしか持って帰ってこない欠片達を、それでもボクは責めることはできない。

 あるいは、別の方法もあったのかもしれないけれど…今となっては、数多の可能性のひとつに過ぎない。


『私』が絶望を…『僕』が悲しみを…『俺』が怒りを…。

『ボク』が抱いたネガティブを沈めるための儀式。


 最後は『ボク』が…。


 産まれることに選択は存在しない。

 でも終わらすことは…自分で選べる。


 人は、どう産まれたかは問題ではない、どう生きて…いかに終わらすか。


『ヨーコ』は、『ボク』に教えてくれた…。

 彼女と同じ歳になったよ『ボク』。


 もういいんだ…みんな、ありがとう…。

 最後は自分で…ちゃんと…。


 生き残りたい?

 生きたい…活きたい…けれど…も…。

 往きたい…逝きたい…。


 もう…いいんだ。

 何人、殺した?

 数えていたかい?


 物語の最後は『死』

 すべての結末は、そこに行き着く。


 ボクも例外ではない。

 こめかみにヒンヤリとした銃口を当てて…。

 目覚めて、『ボク』がやるべきことは、ただひとつ…。

『片山 崇』を葬ることだけ…。


 これが『ボク』の物語…これが『ボク』の終焉、最後の仕事。

 目覚めた意味は?

 眠ったときに決めてあるはずだろ…。


 深く深呼吸して、人差し指に力を込める。

 ダァーンッ……………。

 右耳に、最後に響いた音は大きく…いつまでも木霊するように…いつまでも…いつまでも…。

 少しずつ離れていくように…遠くで鳴った花火のように…響き続けた。


 最後に見た、『ボク』は鏡に写った泣き顔は…やっぱり、いつもの『ボク』の顔。

 硝煙の香り…嫌いじゃ無い…。

 血の香りを消すように…。


「逢えるかな…逢いたいな…ヨーコ…もうひとりにしないから…もう…ひとりにしないでおくれよ…」


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