第33話 枯れいく…
「昼からカツ丼なんて、まだお若いですね」
「定年間際の刑事を、からかうなバカ」
「お元気そうで…安心しましたよ」
「そうかい…お前は、相変わらず少年課か?」
「えぇ…向いているのかもしれませんね」
「そうか…そうかもな…」
「しかし…『片山 崇』…アイツがね…どうにも…」
「知ってるのか?」
「覚えてないんですか? 俺がまだ、交番勤務だったころ、ほらっ、本屋の、乳酸菌飲料泥棒ですよ」
「はっ?…あ~、そんなことあったな…何年前だ?」
「30年以上、前ですかね…俺が20歳になる前ですから」
「本屋の婆さんから交番に電話があって、毎朝、配達される乳酸菌飲を勝手に飲んでいく子供がいるって」
「ハハハ…そうだったな…あのガキが…」
当時…俺が交番でサボっていたときに電話があった。
本屋の婆さんが、毎朝、自分の家に配達される乳酸菌飲料を勝手に飲んでいく小学生がいる、困るので、叱ってほしいと…。
今ほど、うるさくない時代だった。
交番のお巡りさんなんて、近所の何でも屋みたいな扱いをされていた。
少年課なんて大した用事もなく、子供の悪さなんて、交番のお巡りさんの仕事だった。
翌朝、配属されたばかりのコイツと、面白半分で本屋の前に立っていると、集団登校してくる小学生の最後尾に目つきの悪いガキがいた。
俺は背広だが、隣のコイツは制服を着ていたにも関わらず、そのガキは牛乳受けの中から、乳酸菌飲料を取り出して、ゴクゴクと飲み干した。
驚いたのは、その空容器を牛乳受けの上に、トンッと置いて、そのまま列に戻って行ったのだ。
コッチが呆気にとられて、その場で何も出来なかった。
学校が終わるのを待って、小学校を訪ね、そのガキを呼び出してもらった。
校長室で待っていると、普通の顔で、担任の先生に引っ張られてきたのが『片山 崇』だった。
普通の生徒なら、校長室に呼び出されて、警察が待っているとなれば、少しは怖がるもんだ。
『片山 崇』にソレは無かった。
朝の事を聞くと、アッサリ認めて、毎朝の事だからと悪びれた様子もない。
なぜか、校長と担任が頭を下げていた。
「飲まれるのが嫌なら、外に出しておかなければいい」
それが、この子の言い分であった。
正直に言えば、舌を巻いたというか…コイツは大物になると笑っていた。
しばらくして、その小学校の運動会、例によってサボりついでに見ていた。
ふと、あの子の事を思い出して、探してみると、どの組にも見当たらない。
なんとなく、校内を歩いていたら、中庭の池の前で本を読んでいる『片山 崇』を見つけた。
隣に座って、運動会に出ないのかと聞くと『片山 崇』は
「参加しているさ、僕が競技に出ない事がチームの優勝のために一番いいと思った、なにも走ることだけが、優勝のためとは限らない」
そう言った。
「そうか…あの時のガキが…そうだったな…そうだった…」
「今思えば、なんか、こんなことを、しでかす兆候はあったのかもしれませんよ」
大きな、ため息が漏れた…。
会っていたんだ…遠い昔に…。
もし…あの時、笑わずに、《ひ》引っ
小生意気なガキの他愛もない悪戯だと笑わなければ…。
もしかしたら…。
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