第25話 二河白道

 空港から離れた私は、そのまま新幹線に乗って地元へ向かっていた。


 昔から乗り物に乗ると食べ物は食べれない。

 子供の頃は、乗り物酔いが激しく、乗り物移動が嫌いだった。

 食べ物の臭いが車内に充満するのも不快でしかない。


 電車で弁当を広げる、酒を飲む、そういう人間が嫌いだ。

 靴を脱いで、臭い脚を投げ出すサラリーマン。

 当たりまえのように電話に出る、かけるヤツ。

 走り回る子供。


 これのどこが日本人はモラルが高い?のだろう。

 売る方が悪いのか…買う方が悪いのか…。

 売っているのだから、買っていいし、テーブルがある以上食べてもいい。

 のだろうが…臭いの強いものは避けるのが気遣いではないだろうか。


 たかが2時間半、我慢すればいいだけなのだが、やはり私は我慢が足りないようだ。


 僕もお土産は買った。

 僕が買うのは『コトネ』のお土産だ。

 それ以外に渡す相手がいない。


 両親は昨年、無理心中している。

 老いたあげくに、自営業を頑なに続け、借金を増やし続けた。

 遺伝学上の両親に、僕は死を強く勧めた…毎日…毎日…。

 僕が両親の死に気づいたのは、死後3日してからだった。

 同じ家に住んでいるのに…。

 警察も不審に思ったようで脂肪解剖に回されたが、母が寝ている父を殺し、自分も首を吊ったという見解であった。

 死体の処理も掃除も警察がやってくれたのは助かった。

 すぐに、両親の遺品を処分して家をカラにした。

 目障りだったんだ昔から…。

 趣味が合わない。

 ゴチャゴチャとしたゴミ屋敷がスッキリとしていい気分だった。

 久しぶりに…。

 両親の死に立ち会っても、何も感じない。

 後始末が面倒だと感じただけ…。

 なぜ、家で死ぬんだ?

 なぜ、私物を整理しないんだ?

 死んでからも、僕に迷惑をかけるつもりなんだろうか?

 実際、本当に迷惑だ…。

 借金まである…なぜ自己破産してから死なないんだ?バカじゃないのか…。


 溢れてくるのは悲しみじゃない、怒り…そして憤り…。


 僕が、本当に殺したかったのは…きっと…。

 それは『罪』なのだろうか…子供の頃から憎み続けた、いや正確に言えば、ずっと邪魔だった。

 きっと…ずっと、この手で殺したかった…。


 私は『サイコパス』ではないと思う…。

 だって、他人を憎めるし。

 喜怒哀楽だってある。

 両親を殺せれば、嬉しかっただろうし、両親には怒りを感じていた。

 この手で殺せなかったことは悲しいし、死んでくれた今は楽しいし。

 感情の欠落などない。


 新幹線ではウトウトとはするのだが…なぜか眠れない、今はではなく…昔から…。

 不特定多数の他人に囲まれた空間で眠れるほうが不思議だ。


 誰に見られているのか解らないのに…。


 新幹線が隣の市に着いた。

 まばらに人が降りる。


 見知った顔がいるわけでもない。

 僕は、『コトネ』にメールした。


『お土産買ってきたよ』


『コトネ』にいつ逢おうか…今すぐにでも逢いたい…何か月も逢っていないような気分だ。

 抱きしめよう…血の臭いしか感じない僕、『コトネ』の香りで満たされたい。

 ずっと…ずっと…『コトネ』の香りで…満たされていたい…満たされてみたい…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る