第24話 DIRTY GLASS

 空港という場所は退屈しない。

 ここには、人の数だけドラマがある。

 別れ…出会い…喜怒哀楽…。

 そして…殺し。


 このドラマの監督・脚本は私だ。

 出演者には申し訳ないのだが…この作品はノンフィクション。

 テーマが『殺し』であったのは、演者にとっては最大の不幸であろう。

 だけど…たぶん記録にも…記憶にも残る作品になる。

 それを誇りに思ってほしいと願う。

 チープなセリフだけど…

「無駄死にじゃないよ」


 私は、空港近くのホテルに泊まっていた。

 明日は早い。

 早く眠らなければ…そう思うのだが、どうにも寝付けない。

 酒でも飲めればいいのだろうけど、生憎、下戸ってやつでアルコールは種類を問わず受け付けない。

 緊張しているのだろうか…まさか。

 今回だけは、運の要素も混ざる…それが不安を煽るのか。

 あるいは、特有の勘みたいなものだろうか…。

 いやな感じがする。


 日本のお巡りさんの優秀さに、かけようと思う。

 窓の外で飛行機が飛び立つ。

 いい眺めだ。

 しかし、間近で見ると、本当にコレが空に浮くとは思えなくなる。

 航空力学って、そんなに信用の置ける学問なんだろうか。

 確か、最近までクマバチは航空力学では飛べないはずだったんじゃなかったか。

 結果が先に出てしまって…証明が追い付かない。

 フェルマーの定理も、簡単に言えば同じことだ。

 途中経過は無意味…結果が全てだ。

『善』と『惡』だって…結果で決まるものだろう。


 さて…アイツラに手配させたコレが上手くいくのか…。


 翌朝、俺は搭乗口にいた。

 清掃員の制服を着て何か所かのゴミ箱に時限式の発煙筒を入れて回り、一旦外へ出てスーツに着替えて搭乗口付近で2人を探し、視認できる距離で発煙筒の着火を待つ…。

 時間になると発煙筒から煙が上がる。

 空港内は厳戒態勢が引かれ、乗客は1外へ避難誘導させられる。

 人ゴミに紛れ、『イトウ・シュンジ』と『ナダチ・アキラ』を後ろから順に撃ち死体を階段の上から蹴り下ろす。

 発煙筒でパニックになる空港内で、さらなる将棋倒しという事故。

 救急車が何台も出入りする事態になった。


 日本のお巡りさんは優秀だ。


 あっという間に通行規制を整える…整えてくれる。

 テロを視野に入れて…。

 入って来ようとする者には身分証を求めるし、基本的に一般利用者の入港は認めない。

 だが…出ていく者はノーチェック…。

 安全が第一なのだから…現場から離れていく分には規制が無いのだ。

 緊急車両が行きかう道路をしっかりと警備している。


 俺は、空港が避難用に用意したバスに乗り込み、悠々と、優秀なお巡りさんを眺めながら空港を後にした。


 この街でるべきことは全てった。

 時限式の発煙筒は、足元を見られて出費は大きかったが必要経費だ。

 しばらくは、カメラに映ったを探してくれるだろう。

 もちろん男の可能性も視野に入れて。


 日本のお巡りさんは命令に忠実で…日本の刑事の捜査力は世界に誇れるほど優秀だ。

 ホテルの宿泊名簿に『炎明エンメイ』と書いておいた。

 そしてホテルに、バタフライナイフを残しておいた。


 しばらくは、様々な可能性を導き出してくれるはず。

 日本の警察は優秀なのだ。

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