第20話 本地垂迹

 夜の繁華街を歩く。

 どこか適当な店で食事を済ませて、身体を横にして休みたい。

 カプセルホテルでいい。

 どうせ眠れやしないんだ…浅い眠りに微睡まどろむ時間が欲しい。


『コトネ』に逢いたい…。

 逢えば、イラつく話し方と声…なぜだか、時間が過ぎて別れると、すぐに逢いたくなる。

 風俗嬢、自分のことなんて話すわけはない、聞く気もない。

 この嬢は、自分から話してくる。

 別に、私だけということはないのだろうし、誰にでもということもないのだろう。

 風俗でしか働いたことがなく、羞恥心が薄い。

 いつからだろう…彼女とプライベートで逢うようになったいた。

 最初は店と同額程度を支払っていたが、いつしか時間が曖昧になり…毎日メールをやりとりするようになった。

 彼女はSEXを嫌い、裸で抱き合う時間を大切にしていた。

 彼女にとってSEXは愛ではないのだろう…と理解していた。


 細く、女性らしい凹凸の無い骨ばった身体。

 今…ひどく彼女を抱きたい衝動に駆られている。

 実際に逢えば、荒々しく抱くようなことはできない…どうも、私はそういうタイプではないらしい。

 やさしく、慈しむように彼女の身体に触れる。


 繁華街の路地から、女が私にサインを送ってくる。

 指を2本立てたり…3本立てたり…。

 数メートルおきに女が立っている。

 異質な光景なのだろうか…ネオンの陰に立つ売春婦。


 私は、細身の売春婦の誘いを請けた…。


 彼女達は良く知っている…場末のホテルという場所を…。

 それが欲しかったもの…今夜の寝床…欲しいのは、オマエじゃあないんだ。


 カビ臭いベッドに身体を沈ませ、彼女に身を任せる。

 何事か聞いてくるが、私は曖昧に返事をした。

 彼女が私の身体の上で揺れる度にベッドがギシッ、ミシッと音を立てる、それが耳障りで私をイラつかせた。

 身体を入れ替えて、手早くコトを済ませた。

 金を渡して、女には出て行ってもらう。


 熱いか、冷たいしか出ないシャワーを浴び、カビ臭いベッドから薄いカーテンの向こうで瞬くネオンの光を眺める。

 遮光カーテンなんて気の利いたモノあるはずもないホテル。

 タバコ臭く…カビ臭く…湿度が高い部屋。

 これでいい…。

 田舎の色…緑・茶色…目に優しい色、自然の色。

 都会の色…赤・黄色…人工的な光が私の目に突き刺さる。


 こんな部屋で眠ったら…色つきの夢を視るのだろうか…。


 夢は白黒だと聞いたことがある、でも私の夢はちゃんと色が付いている…。

 この部屋で視る夢は、きっと毒々しい悪夢に違いない。


 だから…私は眠らない。

 眠ろうとしない。


 目を閉じて、眠ったフリをする。

 騙すように…誤魔化す様に…。

 誰かから? いやきっと自分をだ。


『ヨーコ』…今、アナタは泣かずに眠れているかい?

 僕はね…。


 眠れずに、部屋を出てフロントに降りる。

 誰もいないフロントに、コインスナックの自動販売機が並んでいる。

 カップラーメン・蕎麦・うどん…スナック菓子。


 私は、ハンバーガーを買った。

 パサパサしてソースも掛かってないようなハンバーガー。

 不味い…私が子供の頃、こんなモノを買ってくれることを楽しみにしていた…。

 不味いハンバーガーをコーラで流し込んで、子供の頃の自分を不憫に思う。


『ヨーコ』僕を愛してくれた女性。

 僕が最後に逢いたいと願う女性。

 僕が懺悔するとしたら…神じゃない…『ヨーコ』だけだ。


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