第19話 Darkness than Black
迷っていた。
出勤の時に殺るか…退社の時に殺るか…。
殺しは一般的には夜が多いと思うだろうが、実はそうでもない。
大事なのは、殺すための時と場所ではなく、どうやってその場を去るかのほうだ。
昼でも夜でも、別にいいのだ。
これだけの人ごみの中で殺る。
誰も思ってない…自分が殺されるなんて、隣の他人が自分を殺りにくるなんて。
俺にはソレが理解できない。
自分の親だって…いつ自分を殺りに来たって不思議じゃないんだ。
「血の繋がりだけで、自分に害が無いなんて、なんの保証なんだい?」
むしろ、血の繋がりがあるから…憎悪に変わるんじゃないのかな…たぶん…。
あぁ…そうだな…そのほうが自然なんだろうな。
人類最初の殺人も…兄弟だったんだから。
決めかねるよなー。
どっちも捨て難くて…。
リボルバーが冷たく薄ら笑いを浮かべる様に手の中で鈍く光る。
デザインもへったくれもない、武骨な殺傷器。
日本刀には『美』を感じる。
拳銃には感じない。
なぜか?
同じ人を
殺すだけなら、拳銃の方が格段に優れている。
機能としては優秀なのに、ヒトに恐怖を抱かせる…私と同じなのかもしれない。
私は武骨なリボルバーに自分を重ねながら、狭いビジネスホテルの天井に向け、蛍光灯にかざして眺める。
綺麗に輝くわけじゃない、鈍く、それでも確かに輝きはある。
「希望…じゃないよな…この光は…」
そう…JOKERの手に光るのは、DEATHCYTHE 死神の大鎌。
魂を引き剥がし、冥府へ誘う断罪の大鎌。
『ミツダ・シゲキ』…貴様の罪、その裁きは俺が請け負った。
「決めた…やはり朝にしよう…」
翌朝、俺はスーツに着替えてビジネスホテルを出た。
スーツというものは、集団に溶け込むのだが、当然のことながら拳銃の携帯には適さない。
どこか線が崩れるのだ。
コートを羽織る季節でもないし…違和感なく携帯して素早く取り出して素早く隠せる、そんな必要がある。
満員電車内で殺るのだから、動きは最小限に留めたいのだ。
俺はセカンドバックの両側の糸を抜いて脇が開く様にした。
中にはリボルバーを入れてサイレンサーの代わりにすることにした。
路地裏で1発撃ってみたが、音は大分抑えられた。
後は…位置取りだけだ。
無理に近づくことはしたくない。
向こうから寄ってくる…それが一番いいのだが、そこは運だ。
『ミツダ・シゲキ』が利用している駅から2駅前で俺は先に乗り込む。
揺られる車内でセカンドバックを脇に抱え、目を閉じて待つ。
目的の駅に停車する際までの減速、窓から『ミツダ・シゲキ』の姿を探す。
「いた!」
俺から見て、左手側のドアの傍だ…。
俺は停車に合わせて、ドアの方へ移動する。
ドアがプシュッと音を立てて開くと降りる人達がズルズルと動き出す。
俺は降りる人の波に身体を預けつつ、『ミツダ・シゲキ』の方へ移動する。
伸ばしたセカンドバックの先が、奴の胸に触れる…その刹那!!
撃鉄を起こしておいたリボルバーの引き鉄を弾く…3回弾くのが限界だったが、心臓、ズレていても肺は撃ち抜いているはずだ。
「バイバイ…」
小声で俺は呟いて…そのまま人ごみに紛れ駅を立ち去った。
『ミツダ・シゲキ』
お前の罪が軽ければ、心臓を撃ち抜かれて即死している…罪が重ければ、肺を撃ち抜かれ呼吸が出来ないまま苦しみ抜いて死ぬことになる…。
「お前の罪は…どっちだった…」
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