第18話 トランプ
私の部屋には、いくつものトランプが置いてある。
箱から出していないままの、ただのコレクション。
選ぶときは、スペードのAとJOKERのデザインで選ぶ。
それ以外はどうでもいい。
どちらも切り札だ。
僕は子供の頃からJOKERが好きだった。
最強でもあり、嫌われ者でもあり、まさにオールマイティな道化師。
きっと僕は、コレになりたかったのだ。
幼い頃に1度だけサーカスに連れて行ってもらったことがある。
大きなテントに、象がいて、空中で人が舞う、それは異空間。
最初から最後まで、舞台を盛り上げるピエロ、おどけて、笑われて。
僕はピエロは嫌いだ。
正確に言うならば、ピエロは怖いのだ。
白塗りの顔に大きく赤い鼻と唇。
本能的に恐怖を感じてしまう。
僕が憧れたのは、サーカスの道化ではない、JOKERなのだ。
人を笑わせるピエロではなく、人を狩るJOKER。
何者にも従わず、何処にも属さないKINGもAも狩れるJOKERという存在に惹かれた。
大人になっても、僕はJOKERで在り続けたいと思っていた。
どこか他人と馴染めず、組織で浮く、それは意図的ではなく僕自身の資質なのだろう。
子供の頃から、僕は理解していた。
きっと、僕には本当の友達など出来ない。
だからカードの中で笑うJOKERに憧れた。
鞄の中には1組のトランプが入っている。
カードをシャッフルする音が好きで、時折、考え事をしながらカードをシャッフルしている。
学校でも…会社でも…僕のこういう態度が気に入らないという先生や上司は多く、態度が悪いと、よく注意されるのだが、考えがまとまるので止める気も無く授業や会議に参加していた。
全員とは言わないが、注意してくる奴に限って大した発言も授業もしないと言うのが僕の私見だ。
このカード好きが災いを呼ぶことになった…昔の話だが。
20代の頃、会社の給料じゃ足りずに、バーテンのバイトをやっていた時期がある。
ヤクザ絡みの店だったこともあり、裏では現金飛び交うカジノに化けていた。
いや、カジノの隠れ蓑にプールバーといったほうが正解なのだろう。
そんなわけで、私もバイト代をソコで落としたり増やしたり…。
胴元はチャイニーズマフィアで、そんな知り合いも何人か出来てしまった。
日向と日陰を行ったり来たり…そんな生活を続けて半年も過ぎた頃、警察の手入れが入るとのタレコミがあったようで、関係者は方々へ散り散りに去って行った。
店は、経営不振ということで、すぐに閉められた。
この件と関係は無い話だが、私も転勤となり、この地を離れることになる。
その後、10年以上、そういう場所と人に縁は無かった。
それでもカジノはボロい商売のようで、各地で行われている。
偶然だった…。
出張先で、連れて行かれた中華料理店に見知った顔がいたのは…。
結局、場所を変え、そんな違法カジノはいくらでも行われているのだ。
断わっておくが、私は通っていたわけではない。
だが…この男には、私から会いに行くことになるのだ。
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