第17話 混雑と新聞

 とある会社の人事課長『ミツダ・シゲキ』チビ・デブ・ハゲそして毛深い。

 若い女性が嫌う要素を兼ね備えている。

 仕事が出来るかどうかは知らない。

 私見ではあるが、人事部で仕事が出来ると言うことは…嫌われているということなのだろうと思っている。

 俺に依頼がくるのだから…まぁ仕事は出来るのかもしれない。

 それが、この『ミツダ・シゲキ』の不幸だったと言わざる得ない。

 人事部と言うのは、勘違いしてしまうやからが多いのも事実だ、それがこういう結果になることもある…。

 安い、ビジネスホテルでレポートに目を通す。

 田舎と違って、都会はいい。

 人の行動が把握しやすい。

 電車は決まった時間に、決まった場所へターゲットを運んでくれる。

 マイカー通勤が当たり前の田舎は、行動が読みにくいのだ。


 しかし…習慣というものは皮肉なものだ。

 目覚ましなどセットしなくても、決まった時間に目が覚める。

 今回は、通勤時に殺るつもりだから、構わないが、なぜ眠れないのだろう。

 最近は、眠っている気がしない。

 浅い夢を見続けているような…どこか現実感が湧いてこないような…自分の身体ですら借り物のような、ぎこちなさを感じる。


 殺るのは…俺だ…他の誰でもない。


 月曜から金曜まで、決まった時間の電車に乗る。

 日本人というのは、型にハメられた行動が馴染むようで、この『ミツダ・シゲキ』も例外ではなかった。

 同じ車両に乗り、同じような場所に立つ。

 殺りやすい。

 待って、引き鉄を弾けばいいだけ…タイミングの問題だけを考えればいい。

 満員の車内で殺るのか、すれ違い様に殺るのか…。


 何日か満員電車に揺られていて解ったことがある。

 この集団の一部になっていると安心するのだ。

 狭い車内に閉じ込められていることで、不快さと引き換えに安心を得る。

 ヒトとは集団に身を置いていると安心する生き物だと解る。


 それにしても、都会という環境に馴染んだ人間は恐ろしい能力を身に着けるものだ。

 新聞を小さく折りたたんで、この状況で読むという能力だ。

 本当に読めているのだろうか?

 読めているとしても、理解できるのだろうか?


 まるでゾンビの群れだ。

 意思があるように思えない。

 身に着いた習慣が抜けきれずにゾンビになっても、駅に集まり電車を待つのではないだろうか…この集団は…。


 そんなことを考えながら、満員電車で揺られていると気分が悪くなってきた。

 気付けば、体臭や吐かれた息が充満する車内、想像の腐臭が現実となって眩暈を誘う。


 眠れない…ビジネスホテルで熟睡などできるものか…固いベッド、合わない枕、狭い風呂、トイレ…ファッションホテル以下のアメニティ。


 日替わりで宿を変えるんだからどうでもいいが、私の寝不足は、ココでも変わらない。


 足首を誰かが掴んだ…ような気がした。

 もちろん気のせいだ。

 でも頭を下げ、狭い視界に私の靴、床は赤く…足首には毛深い男の手が私の足首をガッチリと掴んでいた。


 白昼夢…。


 私は頭を振って、現実に戻る。

 俺は狩る側の人間だ…。

 自分に言い聞かせるように…祈るように…。

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