第14話 Dummy Blue

『カセ・コウジロウ』

 この男は、残業はしない。

 定時であがるわけではないが、管理職でありながら、悪びれもせず6時過ぎには退社する。

 仕事がないのだから当然と言えば当然なのだが…。

 定時にあがらないわけは、女性の作業者が全員あがるまで、従業員玄関で彼女達を眺めるのが、この男の唯一の楽しみだからだ。


 顔に負けずに気持ちの悪い男だ。

 小心者だから何も出来ない…ただ性的な目線で女性を眺める。

 自分が気に入っている女性には、声を掛けたりもするが、あまり相手にはされていないようだ。

 おそらくは、気持ち悪がられているのだろう。


 さて…どうやって殺るか…。

 俺は、アパートで殺すことは諦めていた。

 どうしても目立ち過ぎる。


 そこで、コンビニで殺ることにした。

 コンビニの駐車場。

 カメラの位置を確認して、カメラの真下で始末する。


 雨の日がいい。

 悪天候なら、なお結構。

 幸いなことに、『カセ・コウジロウ』は、ほぼ毎日、このコンビニに来る。

 時間も、まぁ大きくブレない。

 理由は、コンビニでバイトしている女の子が目当てだ。

 顔を覚えてもらうために、毎回レジで、なにか一言話しかけているのだ。

 お弁当を温めてもらっている合間に話しかけるのだが、後ろに他の客が並ぶと、当然、次のお客様…となるわけだが、そうすると機嫌が悪くなる。

 軽く睨んでレジから少し離れるのだ。

 バイト内の評判は『気持ち悪い』だそうだ。


 下調べが楽でいい。

 悪天候を待ってカメラ下で手早く仕留める。

 決まれば、後は天気が崩れる夜を待てばいい。

 その日まで…沸々と湧き上がる感情を冷まさぬように…。

 その醜い顔に、弾丸をブチ込んでやる!!! その瞬間まで。


 そして、その日は訪れる。


 俺はコンビニまで、歩いて移動した。

 公共機関はカメラに映る、バス・電車は使わない。

 車で近くまで移動してどこかに停めてもいいが、どこかのカメラに必ず映ってしまう。

 人が多い都会ならば人ごみに紛れるが、田舎では…難しい。

 カメラを避けて歩くのが一番いい。

 くたびれた中年のジャケットの裏にはリボルバー。

 外側からは見えない狂気は、ジャケットの内側で冷たい鈍色のリボルバーに込められ弾丸に姿を変える。


 コンビニの脇で、俺は『カセ・コウジロウ』を待つ。

 雨が激しさを増していく。

 車が停まる。

 ドアが開く…小太りの侮男が降りてくる、足早にコンビニの軒下に走ってくる。

 なぜ?俺はカメラの真下にいるのか?

 簡単だ、灰皿がその先にある…良い時代になったというべきか…。

 喫煙者は隔離される時代。

『カセ・コウジロウ』は喫煙者だ。

 いつも外に設置された灰皿の前でタバコを吸いながら、お目当ての彼女を眺め、出勤を確認してから入店する。

 タバコを吸いながら、ニヤニヤと店内を眺めている醜悪な男に、カメラの下から声を掛ける。

「火…貸してもらえますか?」

 俺に気づいて、面倒くさそうに俺に近づきライターを差し出す。

 彼にとって残念だったのは、ライターより早く、俺のリボルバーの方が先に火を噴いたことだ。

 胸に一発…ズルッと身体が前のめりに傾く…。

 俺の方へ倒れこむ『カセ・コウジロウ』の醜悪な顔…感情というものは抑えがたいものらしい。


 俺は、醜悪な顔を潰すように、さらに2発の銃弾を解き放った。

 この男が最後に見るのは女じゃない…網膜に焼き付けろ…お前達が産んだ『負』の顔を…。



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