第13話 フィギュア
僕の部屋に並ぶ、ガラスケースに収められたフィギュア。
安いものは数百円から高いものは10万を超える。
その全てに共通することがある。
『なにひとつ欲しかったものはない』
なぜ購入したのだろう?
映画を観て欲しくなったから?
漫画を見て欲しくなったから?
子供の頃に買ってもらえなかったから?
その全ては正しく…その全ては過ちである。
そう…リビングにも、寝室にも、衣裳部屋にもガラスケースが何台も並び、その中でシリーズごとに整頓されて並べられている人形達。
映画の主人公、そのライバル、ロボット、ミュータント…。
僕が死んだら…ただのゴミだ。
リビングだけでも数百万円分のゴミがガラスケースに並べられているわけだ。
会社にゴミと捨てられた僕の部屋のゴミ達に囲まれて僕は生活している。
今日も依頼が舞い込む…クソみたいな奴が、クソを殺してくれと嘆き…叫ぶ…。
「請け負った…」
僕は、リボルバーに弾丸を込める。
「安いモノじゃ無いんだがな…全弾撃ち尽くしやがって…」
ターゲットのことを調べ、レポートにまとめる。
何日も掛かることもある。
だが…これを適当にまとめると死活問題だ。
調べて…調べて…思い出して…。
そして…駅のコインロッカーにレポートとリボルバーを預ける。
これは、『恨みの塊』
『負』が具現化した『凶悪な力』
僕と言う名の『ゴミ』が『クソ』から頼まれて…『カス』に想いを託す。
これが僕の全て。
郵便受けにコインロッカーの鍵を落とせば、とりあえず僕の仕事は半分終わる。
家のリビングで飾られたフィギュアを眺める。
「この中から出なければキミ達はずっとここで大事にされるんだよ…」
どんな理由があっても…倒れたりしたら…僕はきっとキミたちを捨ててしまうから…。
そのままでいて…いつも…いつでも…いつまでも…。
お願いだから。
ロッカーの鍵を手放すと、少しの間だけホッとする。
でも…いつ返されるのか、すぐに不安が湧き上がる。
毎日、毎日、ワイドショーやネットの殺人情報に心が沈む。
僕が依頼を請けなければ…もしかしたら、この殺人事件は起きなかったかもしれない。
数の問題ではないのだろうが…100件起きた事件が101件になっても、どうだというのだろうか。
100件のうち1件に僕に関与していても1%に過ぎないのだから…気にすることは無い。
でも…依頼を請ける度に心に澱みが溜まっていく。
粘っこく、心の淵に付着する。
僕が請けなければ、何も起こらないのかも…。
でも…僕の依頼人はいつも泣いている…それは悔しくて…悲しくて…。
だから…請け負ってしまう、それが『惡』だと知っていても…。
闇に堕ちた者は、もう2度と這い上がれない。
僕は、それをよく知っている。
僕も堕ちた者だから…。
這い上がれないかわりに…沈むことは簡単だ。
ただただ…ゆっくりと蝕まれていくように…呑み込まれていくように…。
慣れることだ。
この闇は、冷えた身体に暖かく…渇いたのどに甘く…それほど悪い場所じゃない。
慣れることだ…そして馴染むことだ…。
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