第10話 迷悟一如

 週末…私はファッションホテルに入って独りでボーッとしていた。

 気持ちは高ぶっているのだが、どうも倦怠感のような怠さが強いのだ。

 軽い眩暈と頭痛、ベッドで、うつ伏せに倒れ込み、しばらくは何もしなかった。

 眠れるわけでもなく、ただ頭痛が収まるのを待つ。


 何時間かして、私は、いつもの店に電話した。

 軽い眩暈は続いている。

 1時間後に誰でもいいから1人、嬢を頼んだ。

 注文を付けたのは、スレンダーな娘ということだけ…誰でもいい…これは本音だ。

 吐き気がする。

 子供の頃から偏頭痛と吐き気、眩暈はセットで私の持病となっている。

 これが続いているうちは、目の焦点が上手く合わない。

 目に飛び込んでくる色が、眼球を鈍く刺激する。

 ファッションホテルの落ち着かない原色が吐き気を誘う。

 幾度か嘔吐えずいて、壁を伝ってシャワーを浴びる。

 湯船に身体を沈めて、心を落ち着かせる。

 しばらくすると、スマホが鳴る、嬢が到着したのだ。

 バスローブを羽織って部屋の鍵を開けると、細くて背の高い嬢が入ってきた。

『コトネ』です。嬢は鼻に掛かったような間延びした話し方で源氏名を名乗る。

 一瞬、吐き気が止まるような美人だった。

 26~27歳か…そんな歳に見えるが話し方は幼く、子供のようだ。

 おもむろにタバコに火を着け吸い出す。

 態度から察するに、風俗歴は長そうだ。

「アタシ、指入れNGだけどいいですか?」

「あぁ…構わない…僕からは何もしない…」

「変わってるんだ…あんまそういう人いない…」

「そう…」


 2人でシャワーを浴びて、ベッドに移り、彼女に身を任せる。

 事が終わると『コトネ』は私に

「ホントに何もしないんだね…アタシ、好みのタイプじゃなかった?おっぱい小さいから…」

「胸の大きい女は苦手だ…それに、キミは僕のタイプだよ」

「ホント?」

「あぁ…」

 これは本当だ。

 彼女は美しい…細い身体、無駄な肉が無い痩せすぎた身体は美しいと感じた。

 時間まで彼女と話した。

 彼女の会話はコロコロと良く変わる。

 大きな声で楽しそうに話す。

 いつしか頭痛も吐き気も収まっていた。


 彼女の携帯のアラームが鳴る。

 シャワーを浴びて、そのまま彼女と一緒に部屋を出た。

 他の嬢を呼ぶ気にならなかった。

 なぜだろう…彼女と別れたくなかった。

『コトネ』の迎えがまだ来ていなかった。

 車で通りすぎようとしたのだが…なぜか彼女に声を掛けた。

「車の中で待っているかい?」

 彼女は嬉しそうに頷いて、私の車の助手席に滑り込むように乗ってきた。

 たまたまなのだろうが、迎えの車は、なかなか来なかった。

 先ほどと同じように色々と話続けた。

 楽しかった…久しぶりに楽しかった…何もかも失った。

 そんな私に数年ぶりに訪れた感情。

 それは、2時間ほどの夢…。


 車で自宅に戻る途中で徐々に冷めていく感情。

 だけど…無くならない、くすぶっている微かな光…温かみ…。


 馬鹿な…たかが風俗嬢…私に話を合わせただけだ…。

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