虚偽

「ずっと覚えてるよ」

 中学生は、私に背を向けたまま話し出した。


 陸上部だったんだ…1年生の時にスパイクを買わされるんだ、最初は皆、同じデザインのスパイクなんだけど、夏休み頃になると、足の速い奴とか、目立った奴はスパイクを買い直すんだ。

 僕はダメさ…。

 家も貧乏だしさ、足も遅いし、僕なんかがスパイクを買ったらまた…。

 だから3年間、履き続けようって思った。


 でも…2年生になるとスパイクがキツくなってきたんだ。

 履き続けているから、穴も空いてるし…そんなときにさ、たまたま同級生のスパイクを踏んじゃったんだ。

 そいつ無言で、僕の足をスパイクで何度も、何度も踏みつけてきて、スパイクがボロボロになったんだ。

 履けないほどにね…。


 僕は翌日から部活をサボるようになった…スパイクも無いし…出れなくなったんだ。


 でも、言えないじゃん。

 だから、サボるって言って行かなくなったんだけど、部活に出てる連中は僕のことを嫌っていたよ。

 無視されてさ…だんだん付き合わなくなっていった。

 そうするとさ、そんな連中が寄ってくるんだ、そう僕みたいな嫌われ者さ。

 弾かれ者の繋がり。

 不思議だけど、周りから弾かれた僕達なのに…その中でも弾かれる奴がいるんだ。


 そうならないためにね、そいつらの中心にならないといけなかった。

 なにかしないとね。

 でも…貧乏だし、なにも持ってないし、何も出来ないし…。

 だから、万引きすることにしたんだ。

 最初は、お菓子とかだったんだけど…調子に乗って繰り返しているうちに、もっと…もっと…ってエスカレートしちゃってさ。

 本から…家電から…時計とかまで、何でも盗んだ。

 頼まれてさ、半額で売ったりもしてさ。

 自販機荒らしたり、ガシャポン盗んだり、もう窃盗団みたいだったよ。

 その中でリーダー気取ってさ…解ってたんだよ…止めたいって思ってたよ…。

 もう…止めれなくなってたんだ、自分ではさ…。

「アイツいつかパクられる」

 みんな言ってたからさ…捕まることさえ出来なかったんだ。

 コレで捕まったら、もう誰にも相手にされなくなるって解ってたんだ。

 だから、もっと凄いものを盗んで…盗んで…もっと…もっと…って歯止めが利かないところまで来てたんだよ。


(捕まったんだろうか…この少年は…)


 でもね…一度も捕まったことは無いんだ。

 だから、僕がリーダーなんだ。

 真ん中さ。

 ずっと…ずっと真ん中だ。


 捕まらない限り…盗み続ける限り…。


 もう2度と外されるのは嫌なんだ。

 なによりも、嫌なんだ。


 でもさ…好きな子に、なんでそんなことするの?もうヤメなよ…って言われたんだ。


 止めたいさ…普通に友達と遊びたいよね…。

 でもさ…盗めない僕なんて、誰も相手にしてくれないんだ。

 金は有るんだ。

 使わないからね、欲しいモノは盗むんだ。

 もう…買い物も出来ないんだよ…僕が買い物なんて出来るわけないだろ?

 盗んでこその僕なんだぜ。


 しばらくの沈黙の後、

「なんで…嘘ばかりついていたんだよ…自分にまで嘘ついてさ…」

 そう言って彼は停車した駅に降りて行った。

「おいっ! ちょっと待てよ」

 私が呼び止めても、彼は振り返らずに改札の向こうへ消えて行った。


 この駅の名は『欠如』

 乗ってきたのはブレザーを着た高校生。

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