リアル・ドリーム
第6話 ローンと残業
一般職には残業手当が付く、管理職になると大概が見なし残業として管理職手当に含まれてしまう。
どちらが得なのか、それは企業の体質でハッキリと別れてしまう。
大手だから、しっかりしているというわけでもない。
まぁ、この男は一般職であるらしい。
通常であれば、19:00~21:00頃に退社しているようだ。
業務なのだろう、月末より月初のほうに残業時間が偏っている。
子供が産まれ、家を購入している。
一番、稼がなければならない時期なのかもしれないが、残業は多いようだ。
仕事の内容が伴なっているかは知らないが、定時あがりでは給料で賄えないのだろう。
奥さんが復職するまでは、厳しそうだ。
レポートが送られてきた。
一緒に入っているリボルバー、全弾装填されている。
補充と言った方が正しい。
仕事が終われば、このロッカーにリボルバーを返す。
郵便受けに鍵を入れておけば、勝手に取りに来て、また仕事が入れば鍵が郵便受けに戻される、そんな仕組みだ。
俺は依頼人とも、仲介人とも、誰とも顔を合わせない。
ひょっとしたら近所の奴が…なんてこともあるかもしれない。
始末屋なんて、そんなものだ。
使い捨ての駒。
俺は、あの無人駅へ向かった。
いつも思う…。
この駅の利用者はいるのだろうか?
誰とも会ったことが無い。
あるいは、この場所が現実ではないのではないか、時折、そんな考えが頭を過ることがある。
そして今回のターゲットは、あまりにも普通の男だった。
依頼人と何があったか知らないが、恨まれるような感じではない。
探る気もないし、関係もない。
俺はただ、期日までにトリガーを弾けばいいだけ。
それ以上のことはしない。
詮索もしない。
最低限のマナーとモラルは守っているつもりだ。
さすがに依頼を請けると、仕事に行くのも億劫になる。
人を消すというのは、思っている以上にストレスが掛かるものだ。
そして、それが麻痺したら、きっと人間とは呼べないのだろう。
兵士というものは、厳しい訓練により人を殺せるようになるのではない。
命令を順守できるように理性を剥ぎ取った結果、人を殺せるようになるのだ。
技術があっても、人は殺せないということなのだろう。
恨みでもあれば別だが、何の関係もない人間を殺せるのは、何も関係ないからか、あるいは誰かの命令だからか…。
命令で人を殺せる兵士はマシだ。
心のどこかで言い訳ができる。
恨みで殺せるのであれば、気が晴れる。
依頼で殺している俺は…。
きっと、心のどこかが腐ってくる、いずれ心は腐臭を放ち地に落ちるのだろう。
政治・宗教に関心が無く、底辺で人生を終えていく、そんな私には、向いているのかもしれない。
この男はどうなんだろう…。
きっと数週間以内に殺されるわけだが、そんな人生だったのだろうか。
私はいいんだ。
もう諦めている。
何も要らない…何も欲さない…ただ腐るだけの私は…。
やり残したこと…あるような…ないような…。
総じてマイナスの人生であったと思うし、プラスに転じることもないと確信している。
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