第4話 Rainy Blue
夜になると雨は激しさを増してきた。
いい感じだ。
雨は良い。
やはり、今日を選んで良かった。
帰宅して、シャワーを浴びる。
あの女を殺る時間まで、まだ6時間ほどある。
ひと眠りしておきたいのだが…心の奥で高ぶるナニカが睡魔を遠ざけているようだ。
緊張しているわけではない、まして興奮しているわけでもない。
むしろ冷静だ。
静かな湖面の底で巨大な怪物が泳いでいるような感覚。
鏡の中で男が笑う。
私という小さな船は湖面に取り残されて浮かぶだけ、その船の下で大きな影がゆったりと泳いでいるのだ。
部屋で音楽を聴く…何もない部屋にクラシックが静かに流れる。
ボリュームは小さく…白い壁に吸い込まれる様に…曲はなんでもいい、騒がしくさえなければなんだっていい。
(ネットで知り合った、あの人は詳しかったな…今、どうしているのか…)
俺は、雨の中を歩く、大通りを避け…他人目を避け。
あの女の帰宅を、女のガレージで待つ。
趣味の悪い、くすんだ赤色の車の陰に身を潜める。
直に帰るはずだ…。
息を殺して、気配を消して、そう、殺るときは流れる様に…待つ時間も短いほうがいい。
家の前にタクシーが止まり、女が降りてきた。
タクシーが走り去り、女が家の鍵を取り出そうとハンドバックをガサゴソと漁る。
俺は、趣味の悪い色の車を壁に女の背後に回る。
薄手の品が悪いベージュのコートコレを血で染めたい…。
女の後頭部に銃を当てると、女の身体がビクッと強張る。
俺は無言でトリガーを弾いた。
雨粒を弾け飛ばす様にターンッという音が響く。
玄関に身体を預ける様に崩れ落ちる女の死体。
俺は、足で女を乱暴に蹴り飛ばし仰向けに転がす。
弾は貫通してなかったようだ。
顔だけ見てれば撃たれたとは思わないだろう。
貧相な小さな目を開いたまま、だらしなく口を開いてゴロリと寝転んで雨に打たれている。
見れば見るほどに腹の立つ顔…。
俺は、再び銃を構えて、その顔に残り4発、全弾を撃ちこんだ。
頬に穴が空き、骨が砕けて、輪郭が歪んだ女の顔。
思ったほどには血は出ない、雨で下に流されているせいもあるだろうが、グチャグチャにならない。
俺は、それが我慢できなかった。
この女は…この性根が腐った中年、色ボケ女は、醜く…どこまでも醜悪な最後を遂げなければならない。
俺は、ガレージに立てかけてあったスコップで顔を滅茶苦茶に刺し続けた。
時折、コンクリートに打ち付けて手が痺れたが、お構いなしに息が切れるまで差し続けた。
顔はグチャグチャに潰れた。
これでいい…これがいい…。
俺は、潰れた顔面を靴で踏みつけ、力を失った女の身体を気が済むまで幾度も蹴り突けた。
おそらくは肋骨も何本か蹴り折っただろう。
人間だったかな?と思うほどに身体が奇妙にグネっている。
その姿に、思わず笑いが込み上げてくる。
出来れば、もっと滅茶苦茶に…このまま家の中に上がって、子供も同じ目に合わせてやりたい、そんな思いを押さえ、荒い息をしながら俺は、しぶしぶその場を立ち去った。
汗ばんだ身体に雨が心地よく、俺は知らず知らず、鼻歌を歌いながら歩いて家路に就いた。
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