人類よ、鴉をしばけ
アーモンド
佐々木憂紀、17歳の狩猟
はじめに―――――。
あれは今からわずか数時間前の出来ごとだ。
『カラスの高度知能化実験が成功』した世界で俺は生きていた。
俺には名前が
……取り敢えず読んでくれ。そしたら後で何を思おうが勝手にしてくれて構わない。
何処から話そうか。
あれは俺がやらかした、その最初の日だ。
・ ・ ・ ・ ・
「死ねぇぇぇぇぇえッッ!!」
散弾銃が火を噴き、頭上の濡れ羽色を鮮血に染め上げた。
滑空、というより発射に近い形で翔んで向かってくるそれは、他ならぬ
何で俺は鴉を射殺しているのか、今となってはその理由も無い。
……取り敢えず、一旦巻き戻そう。こうなった原因を教えたい。
それは俺がまだ普通に高校生をやっていた、その終焉の日の午後から始まる。
・ ・ ・ ・ ・
「ああだりぃ。何かもう色々だりぃ」
「まったくだ」
俺は友人の
「……あ、そうそう。お前の事だから知ってるだろうけど、今朝のニュース」
「無理だろ、鴉がヒト並の知能持つとか」
「やっぱり見てたかあ、感心感心」
先生みたいに言われると何故か嫌だ。
「俺は、あると思うけどなぁ。インテリ鴉」
「何でだよ?気持ち悪いだろ、そんなの」
「いやぁ、ヒトが現れた時代も、周りの奴らはそう思ったんじゃね?
『何か野性捨てたヤツいんぞ』ってさ」
思わず飲んでいたイチゴ牛乳を吹く。
流石に野性の概念もないだろ、原始時代。
「サルみたいな類人猿とかなんかさ、
『あらやだ、二足歩行だなんて』とか
『え、何あれ。マジやばめじゃん?』とか、思ってたんじゃないのかなぁ」
なんでサルに主婦やらギャルやらいるんだ。
「でもさ、人間が知能を持ってなかったら、サルとかが天下獲っててもおかしくはないと思わないか?サルが出来るなら鴉とかにだってチャンスあるだろ。きっと」
まあ、分からないではない、か。
白河と話していると、少々頭を酷使しなければならない。個人的に嫌いじゃないが。
と、昼休み終了の予鈴が響いた。
「……あ、んじゃ俺戻るわ」
「おう、また放課後な」
「おう」
まさかあれが白河との最期の会話になるとは思わなんだ。
そして憂鬱な五時間目がやって来る。
俺の嫌いな数学だった為、黒板上の式が全て踊っている様に見えて来はじめた、その時。
「――――なんだあれ、飛行機?」
生徒の一人が口を開け、全員が窓を向く。
街の中心部にあるシンボル、【工場跡】に垂直に、何かが落ちていた。
歯車を象ったタワーの頂点にやがて、それは落ちた。
そして学校は吹き飛んだ。まるでブロックで造った家を握り潰すかの如く、簡単に。
あっという間に全てが瓦礫になった。
周りには辛うじて息がある者もいたが、完璧に無傷なのは俺だけだった。
白河はというと――――即死だった。
首根っこを暖房器具のパイプで一発だった。
あまりの様に俺は吐いた。
喉を切る胃液が、憎くて仕方なかった。
だが、その後だった。俺が対峙する事になった、アイツらが来たのは。
「ばぁばぁ、ばぁばぁ」
野太い鳴き声を撒き散らし、空を黒々と埋め尽くす、害虫ならぬ【害鳥】。
時にゴミを漁り、時に肉を屠り、時に人さえも襲うソイツらの名前は、朝のニュースでも散々聴いたアレだった。
「…………鴉」
腹の底でグツグツ煮える憤怒を抑えきれず、何処かにぶちまけてしまいたかった。
手頃な瓦礫を手に取り、思いきり投げてみる。鴉は俺を嘲笑うかのようにガァガァと鳴いて避けた。
くそ、鴉のクセに生意気だぞ!
ムキになってポイポイ投げまくってみる。
ところが鴉と来たら空中でひょいと避けまくる。心なしか鳴き声が『バーカバーカ』と聞こえてきた。もう我慢ならん。
何か使える物は……と周りを見渡す。鴉といえば余裕ぶっこいて瓦礫の山に群れてやがる。
――――そういえばウチの校長、趣味で猟の免許持ってたっけか……。
「それだ!!」
校長先生、俺法律幾つか犯します。ごめんなさい(てへぺろ☆)。
瓦礫を漁ってみると、思いの外すぐにお目当ての物が出てきた。
「パッパカパッパッパーン、猟~銃~(ダミ声)」
さあ覚悟しろ害鳥共!穴ボコにしてやらぁ!
「死ねぇぇぇぇぇえッッ!!」
猟銃とは名ばかりの散弾銃が火を噴き、頭上の濡れ羽色を鮮血に染め上げる。
『この野郎、仲間を殺りやがったな!!』
鴉がヒト語を喋っているのも最早気にならなかった。
弾丸の如く飛翔してくる鴉に対し、銃口を向け威嚇する俺。
「おら来いよ、全員射殺だ!!銃さえ持ってれば、俺は敵無しだ!!!」
「バァァァァァァァッッ」
鴉が固まって飛び掛かって来る。
「集団で襲って来るとは、当て易い!!」
銃声が鳴り響く。
鮮血と硝煙が、瓦礫にこびりついた。
銃弾がとうとう切れた。
思わず笑いが込み上げる。
鴉の嘴が、俺の腹に刺さっていた。
また最後の鴉の腹も、銃弾で穴ボコになっていた。
「……引き分け、か……?」
そうして息絶えた鴉を腹から引き抜き、止まらない流血を嗤ってしゃがみこむ。
頭上にはやけに綺麗な星々が出始めていた。
白河、俺は人間の天下を護ったぞ……多分。
遠くで獣の咆哮が聴こえる。
訂正。最後は何かでかめの獣が治めるっぽいぞ、地球。
……俺、もうすぐそっちに…………。
「…………おい、目を覚ませ、おい!!」
おいおい、俺は夢でも見てるのか。
黒猫が、ヒト語を喋ってんぞ!
後ろには……ドラゴン!?
すまん白河。俺まだそっち行けねぇわ。
(了)
人類よ、鴉をしばけ アーモンド @armond-tree
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