第六話 少しづつ、しかし確実に蝕まれゆく日常2

────side 翔也




一限目は数学だった。

数学は俺の得意科目だが、さっき見たものが気になって授業に身が入らない。


結局、あの後も例の事件に関するものは一切見つからなかった。

やはり空が何かを勘違いしていたのだろう。


しかし、目的のものが見つからなかった代わりに少し面白そうなものが見つかった。

というのも、この付近で謎の巨大生物が発見されたとか言って話題になっていた。

既にSNS上にその謎の巨大生物とやらの画像が大量にアップロードされているのだが、そのどれもがボヤけているせいで『出来の悪いコラ画像』などと言われているみたいだ。

実際、俺も最初はそう思った。


────が、考えてみてほしい。

ほぼ同じ時間に、それも近くで撮られた写真が大量に存在しているのだ。

ただの悪戯と決めるにはちょっと不自然だ。

……まあ、あらかじめ画像を作っておいてほぼ同じ時間に投稿する、といった計画的犯行の可能性もなくもないのだが。


正直、今の俺は少し気分がたかぶっている。


『敵が欲しい』


この願いが叶うのもそう遠くない気がしたからだ。




────side 空




昼休み、今日も私は一人で弁当を食べていた。

弁当と言っても、朝食の余りを詰めただけなのだが、我ながらそこそこ美味しい。

黙々と食べ物を口へ運び、良く噛んでから飲み込む。

これを淡々と繰り返す。

一人でする食事なんてだいたいこんなものだ。

……悲しい。

しかし、メリットもある。

他人と会話することがないため、食べる速度が必然的に上がるのだ。

つまり、より多くの自由時間を確保できることを意味する。

……という思考がより一層虚しさを大きくするのは分かってる。

仕方が無いんだよ。

見ての通り、私には友人と呼べる存在がいない。

特に何か悪い事をした記憶はないのだが、周りからは避けられてる……ような気がする。

まあ、一人でいるのにはもう慣れてるから今更どうということ────


「ねえ、朝宮さん。私も一緒に食べていい?」

「えっ……と」


急に声を掛けられたため、少し戸惑ってしまう。

声の主は花園さん。

茶髪のロングヘアーが特徴だ。


「別に良いけど……今から食べるの?」

「そうなの、購買でパン買ってたら遅くなっちゃった」


彼女はそう言いながら私の前の席を回転させて私の机と向かい合わせると、席に着いた。


「……朝宮さん、食べるの早いわね」

「そうかな?」


正直これはぼっちが為せるわざなので、あまり言及しないで欲しい。

話題を強引にでも変えよう


「そういえば、いつもは弁当だよね?今日はどうしたの?」

「あー、それはね…恥ずかしながら家に弁当を忘れてきちゃったのよ。いつもはこんな事ないんだけどなぁ……」

「まあ、忘れ物なんてそんなものだよ」


それにしても今日は弁当を忘れる人が多い気がする。

……どこかの誰かさんも忘れてたみたいだし



────side 翔也




「へっくし!!!」

「うわっ、きったねえ!」

「……風邪かね?」

「彼女がお前の噂でもしてるんじゃねーの?」

「彼女じゃないって言ってるだろ」



────side 空




「いやー、まさかあの朝宮様が寝坊で遅刻するなんてねぇ」

「“朝宮様”って……私、別に大したことないよ?普通にドジすることだって結構あるし」


私の言葉が意外とだったのか、花園さんは目をぱちくりさせながら、


「はえー、そうなの?朝宮さんっていかにも優等生!って感じだし、てっきり完璧超人だと思ってたわ」


と言うなり惣菜パンにかぶりつく。


「まさか。誰だって失敗するし、完璧な人なんて世の中そういないよ」

「ほふはひは?」

「こら、口に物入れて喋らない」


頬が膨らんでリスみたいになってる。

きっと彼女は『そうかしら?』と言いたかったんだと思う。

彼女は口の中のパンを飲み込むと、お茶を一口。


「ほら、そういう所とか。なんかきっちりし過ぎてるというか……近寄り難いと言いますか」

「うーん、私はそんなつもりたいんだけどなぁ」


なるほど、周りから若干避けられているのはこういう理由か。


「本当に普通だよ、私は。よくゲームで遊ぶし、勉強はあんまり好きじゃないし、賑やかなのが好きだったり」


ちなみに、ゲームは翔くんと二人の時しかやらない。

翔くんの所有物だから当然ではあるが。


「うーん、そっか。今まで朝宮さんのこと誤解してたわ。てっきり一人が好きなのだとばかり」

「そんなことないよ。……まあ、そう思われるような行動をしてる私が悪いんだし気にしないでよ。……そういえば、今日は島田さん休んでるみたいだけど、何か知ってる?」


島田さんというのはクラスメートで、いつも花園さんと一緒にいる子だ。


────嫌な事実に気が付いてしまった。

花園さんが私に話し掛けてきてくれたのは、島田さんがいなかったからだと。

実際は違うかもしれない。

しかし、もし仮に島田さんが学校に来ていたとしたら、恐らく私が花園さんから話し掛けられるそおもなかっただろう。

……複雑な気持ちだ。

────と、そんな事を考えていた私は、つい耳を疑ってしまうような言葉を聞いた。


「あの────島田って…誰?」



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