第一話 幼き日の記憶
─────side 翔也
12歳の夏のある日。
ブランコに座り、先程コンビニで買った弁当に手を付ける。
最近のマイブームは牛カルビ弁当だ。
安くて美味しい、そして量も十分。
今日は天気が良い。
しかし、雲一つなく、まだ日が高い時間にも関わらず、公園で遊んでいる子供は誰一人としていなかった。
理由は分かりきっている。
俺がいるからだ。
わかり易く言うと、俺は他人から避けられているということだ。
ちょうど半分程弁当を食べ終わった頃、誰かが公園に入ってきた。
無地の白いワンピースを着た、綺麗な黒髪の女の子。
可愛らしい侵入者は俺の姿を見るなりこっちへ近付いてきて、隣のブランコへと腰を下ろす。
「…おい」
「ん?」
彼女はきょとんとした顔で俺の顔を見る。
その目には恐怖や怯えといった感情はかんじられない。
「お前、この辺りに来るの初めてだろ」
俺の言葉に、彼女少し驚いたような顔をする。
「へー、なんでわかったの?」
「……俺の顔を見て近付いて来る奴なんてこの付近にはいない」
「なるほど」
そう言うなり彼女はブランコを漕ぎ始めた。
「ちなみに、なんで嫌われてるの?」
「勝手に嫌われてるって決め付けんな。……まあ、似たようなもんだけどさ。簡単に説明すると、小さい頃に能力が暴発して怪我人が出た」
「……今だってちっちゃいじゃん」
「お前には言われたくねーよクソガキ」
ムカついた。
俺は基本的に気が短いが、それは周りの奴らが悪い。
というのも、どいつもこいつも俺を腫れ物を触るかのように扱うし、中には敵意のようなものを持った奴もいる。
……別にお前らには危害与えてねーだろうが。
「ふーん、能力者だったんだ、君」
「まあな。つっても、今まで生きてて大して役には立たなかったけどな」
「────で、なんで嫌われてるの?」
話聞いてたのかコイツ。
「あのなぁ…さっき言っただろ?昔に────」
「たった一回の失敗で?それに、わざとやったわけじゃないんでしょ?」
「確かに一回の失敗だったかも知れないが、お前はいつ爆発するかも分からない爆弾の近くに寄ろうと思うか?」
そう、無意識にやってしまったからこそなんだ。
無意識に起きたということは、周りからの認識では自分の意思ではコントロールできないと思われても仕方がない。
「……私には、あなたはただの人間にしか見えないけどね」
いや、爆弾ってのはただの例えなんだが。
「まあ、お前が思ってる以上にこの世の中は厳しいんだよ」
「……まだ大して生きてもない癖に偉そうに」
「だからお前には言われたくねーよクソガキ」
「……」
ここで会話が一旦途切れる。
しかし、こういう風にして誰かと話したのはいつ以来だろうか。
随分と久しぶりな気がする。
暫しの静寂の後、彼女が口を開いた。
「一つ思ったんだけどさ」
「…何をだよ」
「君って、滅多に笑わないよね」
それもお前に言われたくない。
「お前だって全然笑わないだろ」
実際、今までの会話の中でコイツは一度も笑っていない。
「まあ、私は人の不幸話聞いて笑えるような愉快な感性は持ってないからね」
「……」
確かに言われてみれば、何か笑えるような面白い話はしてないけども。
「で、これも人から避けられてる原因の一つだと思うの」
「そうか?」
「だって、私がこの公園に入った時のあなたの顔、凄い怖かったもん。そりゃ、誰も人が寄ってこないわけだよ。……威嚇でもしてたの?」
「してねーよ!」
……ただ、彼女の言っていることも一理あるかもしれない。
俺は無意識のうちに、救いの手を拒絶してしまっていたのではないかと思えてきた。
「だからね、君は普段から笑ってれば良いんじゃないかな?」
「そう簡単に言うけどなぁ…それに、一人で笑ってるって、周りから見れば相当ヤバい奴だぞ」
少なくとも俺はそんな奴に近付こうとは思わない。
「一人…ねぇ。君、家族とかいないの?」
彼女は恐る恐るそう口にした。
「……まあな」
気が付いた時には俺は一人だった。
最初家には莫大な金だけあって、それ以外は何もなかった。
「家族もいないって、それ本当!?」
「うおっ、なんだいきなり!」
目を輝かせながら詰め寄ってくる。
おい待てなんだこの食い付き!?
「じゃあ、君には友達も家族も、仲のいい人は誰一人いないってことで良い?」
「うるっせえなこの野郎」
一々口に出さんで良いわ。
……それにしても上機嫌だな。
「私ね、探してたんだ。君みたいな、誰からも愛されてないような一人ぼっちの人」
「…おいもう少し言葉を選べ」
さっきから結構グサグサくる。
「ねぇねぇ、君の名前は?」
「人に名前聞く時は自分からって────」
「できればそうしたいんだけど、私名前持ってないんだよねー…」
「は?」
名前を持ってない?
じゃあ、今まで一体どうやって生きてきたんだ。
「……もしかして疑ってる?」
「別にそういうわけじゃないけどさ…」
あー、くそ!
そんな顔すんな。
「……
「きたみしょう…ね、覚えた」
彼女はそう言うなり、ブランコからピョンと飛び降りると、手を後ろで組みながらニッコリと笑って見せた。
「────それじゃあ翔くん、私と家族にならない?」
一見すると、ただの子供の戯言。
しかしこの言葉は、この時の俺にとってどれだけ衝撃だったかは言うまでもない。
……ちなみに俺の名前は翔也だ、翔じゃない。
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