未来に繋ぐ為の、過去の話 4
「大丈夫……えっと、仲は良かったし、そこは問題なかった。それで……ある日、デートが終わって別れる時……俺は実菜に、送って行こうかって聞いたんだ。でもあいつは良いよって、笑って手を振って帰った……んだけど…………」
真剣に聴いてくれている壱に応えるよう、前を向いて話す。が、思い起こす苦い記憶の重圧に、途中でハンドルをギュッと握りしめたまま、言葉が詰まる。
「……帰らぬ人となってしまったのかぇ?」
話が途切れて暫く沈黙した後、壱は先程買った花に目を向けて、言葉を選び振り絞った声色で話の続きを促してくる。俺が、勇気を出して語り切らなければ、現状は打破出来ない。
「いや、違う。ただ……次の日会ったら、様子がいつもと明らかに違って……俺、何があったか聞いたんだけど……黙ったまま言わなくて。それで……その2日後、手首……切って、自殺、した……」
声が、震える。
「誰にも言えぬ事情があったのじゃろう……真也は何も悪くないのじゃ……」
しんみりした雰囲気で、告げられた言葉。死んでしまった実菜に対する罪悪感と、今、隣に居る壱に対する別種の罪悪感に苛まれる。
「ううん、後で彼女のお母さんに理由聞いた……複数の、男に……その、暴行……されたって。俺が、あの時っ……無理にでも送ってたら、こんなことには……」
後悔ばかりの、とても言いづらい話だ。俺はいつの間にか唇を噛み締めていた。
少し間を置いて何かを考えていたのだろう、壱の視線が俺に向かってくる。決して俺を責め立てたりしない目に、実菜に対するものとは別種の罪の意識が強くなっていく。
「真也がまだ……実菜というおなごを愛しておると言うならば、じゃ……ちいとばかし話をさせてやる事は出来るのじゃ」
「……え?ごめん壱、気持ちは嬉しい。けどまだ続きがある……」
「うむ、済まぬな……続きを話してみよ」
壱は再び俯き視線を逸らし、静かな声で告げた。
「良いよ、気にすんな。実菜の事は愛してたし……今、愛してないかって聞かれると否定は出来ないかもしれない……そりゃ、あいつを失った時は……二度と大切な人は出来ない、誰かを大切にする資格なんてないって思ったよ。だけどな……?俺、今は壱が大好き……心から、愛してる。許されるなら……今度こそ、壱だけは大切にしたいし守りたいって言うのが俺の本心。だから、そういうのも含めて、実菜に報告しに向かってるんだよ。確かに……直接話せた方が良いのかも知れない……だけど俺は俺のやり方で伝えたいから。って、逃げてるだけだけどな?」
大丈夫だと告げて、話を再開する。途中で壱の顔を見つめて、真剣な声でハッキリと自分の想いを告白した。嫌われるかもしれない恐怖はあるが、壱はこんな俺の話を聞いても、酷い奴だと罵ったりはしないだろう。言い切ってから意識的には愛の告白というより、罪の告白に近いと感じたそれに、自嘲する。
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