未来に繋ぐ為の、過去の話 3
「ど、どのような花を探しておるのじゃ?」
手は繋いだまま、花を探す俺に壱が問いかけてくる。緊張感に耐え切れなくなった様子の、分かりやすい声色だ。
「壱、そんなに緊張しなくても大丈夫だから。探してるのは、えーと、カスミソウとアヤメ」
一度、顔を見て安心させるように優しく告げた。壱は大きく頷いて、スッと手を離した。
「愛らしい花じゃのう。元気に咲くのじゃぞ〜?」
声のした方向を見ると、カスミソウとアヤメがあった。壱はしゃがみこんで花に顔を近づけ、匂いを嗅ぎながら話しかけていた。話しかけている様子を微笑ましく思うからこそ、少し申し訳なくなる。
「あ、すぐそこにあったんだ。壱は優しいな。これとこれ買う予定だったんだけど……壱が花にそうやって話しかけてると、何だか買うのが可哀想になってきた……」
「花はなぁ、最期は精霊の元へ戻るのじゃ。真也よ、この子らは綺麗に咲くのじゃから、買ってやるが良い」
和らいだ表情を向けられ、俺は壱の言葉を素直に受け止める。
「へぇ……それなら、買おうかな。すみません、このカスミソウとアヤメを3本ずつ下さい」
近くで花の手入れをしていた店員に声をかけて、店員が花を摘むと綺麗に包装をしてくれた。お金を支払い綺麗に包装された、これから美しく咲き誇るであろう花束を受け取る。
「ほぅ……痛くも怖くもないのじゃ。あの子らも大丈夫じゃよ」
壱は、摘まれた花の切り口に手を翳し、話しかけてから立ち上がった。
「だな、なんか……壱が言うと説得力ある」
俺は、壱の手を握る。握り返してくる手の感触が、心地よい。
「じゃあ、車戻ろうか?」
「うむ!出発なのじゃ」
すぐ近くに停めた車のロックを解除して、後部座席に花束を置き、閉めてから助手席のドアを開ける。
「はい、壱どうぞ」
「うむ……」
車の助手席に乗る前に、壱は俺に軽く抱きついてきて、すぐに身体を離し、何事も無かったかのように尻尾を挟まないよう気をつける仕草で助手席に座る。
どんな意味があったのか、想像もつかなかった俺は一瞬首を傾げてから助手席のドアを閉め、運転席に乗り込んで、二人分のシートベルトを締める。
エンジンをかけ、車を走らせる。少しの沈黙で、胸が痛む。何から、どう話せば伝えられるのか?俺自身が困惑したままでは、話しなんて何も始まらない状況が、重たい。
「……本題に入りたいんだけど、いざ話そうと思うと切り出しにくいな……タイミングが難しい……」
「構わぬ、話して欲しいのじゃ。真也は無粋な事などせぬと、信じておるからのぅ」
いざ口を開いてみたものの歯切れの悪い俺を、壱は横目でチラリと見てきた。続く言葉は穏やかな口調。安心し、頷いたものの、話そうとすると上手く伝える方法が出てこない。
「ん……分かった。どこから話せば良いだろ……壱は……何から知りたい?」
「……まずは、真也と実菜とやらの関係性から知りたいのじゃ」
この時、静かに頷いた壱が、必死で平静を装っていただけだったと気付いたのは、後になってからだった。
「実菜は、俺の高校の時付き合ってた彼女……で、まだお互い若かったけど、真剣に愛してたし、大事にしてたんだ……」
きっかけを貰い、ポツリポツリとゆっくり話を始める。壱は軽く俯いて、俺の話を真剣に聴き、ゆっくり口を開いた。
「ふむ、離別の原因は……とてつもなく哀しいものじゃろうが、話してはくれぬかのぅ」
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