未来に繋ぐ為の、過去の話 2

壱の手を握って、駐車場に向かう。

「それは着けば分かる。距離は……ちょっとあるから、車乗るよ。あと、そこに行く前に寄りたい場所があるんだけど……良いか?」

「ほう……寄りたい場所かぇ?寄るが良い」

「うん、ちょっとな」

駐車場に向かう途中、壱は大人しく付いてきている状態に見えた。ふと、思い出したように壱が口を開く。

「少し離れた場所に行くのならば、念のため車の中で神酒を飲ませて貰うぞぇ」

「それは構わないけど、寄りたい場所はそんなにかからないぞ?まぁ、その間に飲めば良いか」

駐車場の、車の停めてある場所に着く。キーを出してロックを解除。助手席のドアを開けて壱に乗るように促す。壱はドアに尻尾が挟まれないよう膝の上にクルンと回して座り、酒瓶の入った風呂敷を抱えていた。

助手席のドアを閉め運転席に回り、車に乗る。壱と自分のシートベルトを装着する。

「ワシら分社の眷属はのぅ、土地神の性質も継いでおる故に、本来あまり遠くには行けぬのじゃが……神酒の力を借りれば、少しばかし動ける範囲が広まるのじゃよ」

エンジンをかけた後、独り言のような壱の声に、申し訳なくなる。

「あ……そうだったのか。なんか、知らなくてごめんな……俺の都合なのに」

「その為の酒でもあるしの、真也が謝る事ではないのじゃ」

風呂敷を開けて酒瓶と盃を出し、盃三杯分ほどの神酒を飲み干して、酒瓶と盃を元に戻す壱の声色は、優しいものだった。ほっと胸を撫で下ろし、ハンドルを握り、車を走らせ始める。

「……ゆっくりで良い。今日は、真也の話を聴きたいのじゃ」

「そう、か……それなら安心した。うん、起こった出来事も俺の正直な気持ちも、ちゃんと全部壱に言う。ただ、寄りたい場所で用件済ませてからでも良いか?その方が、俺も落ちついてゆっくり話せるから」

「構わぬのじゃ……少々、怖い気もするがの。真也の気持ちは受け止めたいのじゃ」

「怖い……と言うよりかは、重く感じるかもな」

伝えたい内容が内容なだけに、俺自身も少し考えこむ。壱は、風呂敷包みをギュッと抱きしめて口を閉ざした。白い狐の耳が、不安げに垂れ下がっていた。

「そんな不安そうな顔するなよ。俺だって言った後の壱の反応を考えると、不安なんだから……でも黙ってて嫌われるよりか、全部話して嫌われる方がマシだ」

躊躇いつつも、俺は俺の意志をハッキリ壱に告げた。ここまで意志を貫き、伝えたいと思った事なんて十年以上は無かった感覚。俺自身も、戸惑ってしまう。

無言のまま、車を10分ほど走らせる。小さな花屋、寄りたかった場所。車を停めてシートベルトを外す。

「着いたよ、ここ。壱も一緒に行くか?それとも車の中で待ってる?」

首を傾げて問いかける。黙りこんだまま、小さく頷いて返事をした壱は、顔を上げた。何かを決心した表情に、普段の柔らかさは無かった。

「仏花でも買うのかぇ?……一緒に行くのじゃ」

「んー、そんなとこ。分かった」

仏花という言葉に否定はせず、一緒に行くと告げてきた壱に頷いて、シートベルトを外す。先に車から降りて助手席に回りドアを開けた。

車から降りた壱が、俺の服の裾をちょこんと握って付いてくる。車のドアをロックしてから、服の裾を掴んでいる手を自然に取り、ギュッと繋ぐ。壱のもう片方の手は、酒瓶と盃の入った風呂敷を持ったままだった。

「あ、風呂敷は置いていって良かったのに。気がつかなくてごめんな?」

小さな花屋で俺は壱を連れたまま、買いたいと思っている花を探し始めた。

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