第3話 嗚呼、素晴らしき夢の跡

大学のサークル棟の片隅に汚いバラックがある。

特に関心を示す事はなかったが知ってはいた。周りには錆びたドラム缶、用途の知れない廃材、廃タイヤ、何かから取り外されたような流線型のプラスチックの山。どこからどう見てもゴミ置き場である。希望に満ちた大学生が関心を示すモノなど欠片もないのだ。敢えて好意的に表現するならば…


「夢の跡…」


思わず口からポツリと出た。

「お!なかなか上手い事言うねぇ」

俺の呟きを聞いた全身赤い服で身を包んだ一人がニヤリと笑った。

「コレがゴミの山にしか見えない奴は人生の楽しみを一つ失っているでござるよ」

全身緑の趣味の悪い男が追従した。

勘違いして欲しくはないが俺にはゴミの山にしか見えない。敢えて好意的に表現した言葉が口からこぼれただけなのだが…。

「例えばコレ…凡人にはただの割れたプラゴミにしか見えないでござるがパラガンのHBカラーのカウルでござる」

緑の男が軒下に無造作に置かれた黄色いプラゴミを示して見せた。

「…割れていながらも状態は良い…フフ」

青い服のキザったらしい男が鼻先で満足げに笑った。

正直何がどうゴミじゃないのかわからないし状態はどうみてもゴミだ。二輪サークルというからには恐らくバイクの部品なのだろうが…。

「ああ、あれですか?リサイクル!エコですね」

恐らく彼らはエコロジストでバイクの廃品を集めリサイクルしたりする事を活動の一環としているのだろう。よく見れば何台か朽ちたバイクが並んでいる。おそらくこれから解体分別するのだろう。

楽しみとしては理解の範疇を超えていて共感できる部分は何一つないが行いとしては否定できない善行だった。


パラパラパラパラ…!


そんな時耳障りな破裂音のようなモノが背後から近付いてきた。

続いて鼻をつく異臭。

鼻を手で覆い振り返ると白い煙を纏うバイクが間近で停車した。この酷い臭いと耳障りな音の主だった。


「邪魔」


バイクの主にそう言われて俺は慌てて飛び退いた。

そして距離を置いて目に入ったのは先程話していた黄色いプラゴミ「HBカラー」

「HBカラー!」

思わず口から出た。覚えたての単語を発する赤子の如く。


「RG250ガンマだ。君この子が解るのかい?」


バイクの主はバラックの脇にバイクを停めるとそう言いながら近付いてきてヘルメットを脱いだ。

サラサラと美しい黒髪が風に舞う。

甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。先程の異臭が嘘のように掻き消えた。

厳ついライダースーツで気付かなかったが女の子だった。よく見れば華奢で背も低く、切れ長の瞳に白い肌。顔だけみればバイクとは結びつかないような日本美人だった。


「君はスズキ乗りか?」


あまりの美しさに見惚れて言われた言葉が上手く理解できなかった。「スズキ海苔」とはどんな海苔なのか。俺は必死で海産物を頭に巡らせた。







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