紹介したいひとがいます
「おっ? インターホン? 誰だろうこんな時間に……はーい」
「会って欲しい男の人がいるのです」
「なんだ
「岳北タクシーの前田さんです」
「タクシー料金の請求じゃねーか。ああ、すみません妹が。駅からここまでの料金ですか。じゃあこれで。ありがとうございました。で、なんなんだよ」
「ご飯を作りに来たのです」
「思いつきで東京から静岡まで来るんじゃねーよ。片道2時間だぞ」
「知っていますけど?」
「知っていますけどじゃねーよ。どうせ俺を実験台にして作った事ないやつ試してみようとか思ってんだろ」
「今日のメニューはカルボナーラです」
「おっいいですねって、そうじゃねーんだよ。お前焼きそば以外の料理作れねーじゃねーか。麺類なら全部一緒とか思ってんだろ」
「妹は兄に料理を作ってあげたいのです」
「……んだよ。まあ、そう言われると悪い気はしないけどな。じゃあ頼むわ」
「その前に……あの……」
「ん? なんだ? ああ、包丁とかならシンクの下の棚の中だぞ」
「材料を用意していただけないと困るのですが」
「メニューだけ決めてきたのかよ。行きがけに買って来いよ。しゃーねーなー、じゃあ買い出し行くぞ」
* * *
「では。調理を開始します。兄は妹がいいと言うまで絶対このキッチンの扉を開けないでください」
「鶴の恩返しかよ」
「でも時々は覗いてもいいのですよ。レシピを教えたり使った物を片付けたり」
「手伝わせる気満々じゃねーか。」
「では、ずんどう? とかいうのを出して下さい」
「もう俺キッチンのこっち側にいる事前提じゃねーか。あー
「知っていますけど?」
「知っていますけどじゃねーよ。思いっきり疑問形だったじゃねーか。私のスタイルの事? とか思ってたんだろ」
「ずんどう……」
「おいおい。あーもう心配すんな、冗談だって。ちゃんとくびれてるよ。そんな細くてちゃんと飯食ってんのかって心配になるくらいだわ」
「1日5食程度には食べていますけど?」
「それはそれで心配だわ。そういや俺すげーペースで食料送らされてたわ。まあいいわ。で、次は何がいるんだ? フライパンか? 包丁か?」
「次は茹で上がったパスタを出して下さい」
「もうそれ調理終わりかけじゃねーか。まあいいわ。寸胴にお湯張ってな、こうパスタを入れて所定の時間茹でるんだ。ゆで時間は袋に書いてあるからな」
「1人前は7分」
「ああ、このパスタだとそうだな」
「では2人前だと14分ですね」
「茹で時間も倍にするんじゃねーよ、倍にするんならお湯だお湯。延びるだろ」
「知っていますけど?」
「知っていますけどじゃねーよ。そこそこドヤ顔だったじゃねーか。ほら、パスタは茹でとくからお前はカルボの液作っといてくれよ」
「卵2個に生クリーム少々……。コンソメ……。粉チーズも……」
「おっ、生クリーム入れるタイプか。俺そっちの方が好きなんだよなあ。こってり系で。ひょっとして覚えてくれてたのか?」
「えと……あの……」
「なんだよ、ひょっとして照れてるのか?」
「炒めたベーコンと黒コショウも用意して下さい」
「ほぼ全部俺にやらせる気じゃねーか。あーもうやるよやるよ。ニンニクは入れて大丈夫だったよな? よし、炒め終わったぞ。そしたら、火を消してパスタをフライパンに上げてな。ゆで汁もちょっと入れてざっと合わせるんだ。で、カルボ液も入れてホイホイっと。これで皿に盛って黒コショウを振れば出来上がりってわけだ」
「では、さっそくいただきましょう」
「おう、芙美は飲み物持ってきてくれ。冷蔵庫にウーロン茶入ってるから。てかお前、1人前で足りるのか? いつもメチャクチャ食ってるんだろ?」
「大丈夫です」
「なんだよ遠慮しなくていいんだぞ。今更少食ぶってもバレてんぞ」
「この後実家にも行ってお母さんの夕飯をいただきますから」
「まったく遠慮してねーじゃねーか。心配した俺が馬鹿だったわ」
「では、いただきます」
「いただきます。……うん。いけるな。いつもの味だ。つか、ほぼ俺が作ってるから当たり前だけどな」
「はい。おいしいです。ふふふ」
「なんだよ急に」
「相変わらず兄は妹に甘いですね」
「何言ってもお前に響かねーからだろ。諦めてんだよ」
「でも本当は違うのですよね?」
「……面倒くせーなー」
「ね?」
「はー。もーわかったわかった。芙美が好きだからだよ」
「知っていますけど?」
「知っていますけどじゃ……って食うの速っ!! しかもいねえ!! あいつもう食って出て行きやがった。すげー腹減ってたんじゃねーか」
「……明日、また米送っとくか」
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