妹はだいたい知っている

吉岡梅

緊急事態です

「はい。もしもし、西宮にしみやです」


「お米がなくなりました」


「なんだ芙美ふみか。いきなりだな」


「兄からお米を送っていただけないと妹は死んでしまいます」


「大袈裟だな! 仕送りは振り込んで貰ってるんだろ?」


「知っていますけど?」


「知っていますけどじゃねーよ。それで食い物買えばいいだろ」


「妹は兄の作ったお米じゃないと食べる気が起きないのです」


「そんな事言って、単に食費を節約したいだけだろ。それか買い物面倒臭いんだろ?」


「兄のお米はおいしいのです」


「……んだよ。まあ、そう言われると悪い気はしないけどな」


「では、お願いします」


「わーったわーった。明日にでも送るから。で、そっちはどうだ?」


「その前に……あの……」


「ん? なんだ? お礼とかならいらねーぞ」


「キャベツも送っていただけないと困るのですが」


「本当にお礼とかじゃねーのかよ」


「あと焼きそばも」


「まだ食う気か。てかもう俺の作った物ですらねーじゃねーか」


「東京の焼きそばは麺が細いのです」


「こっちが太いんだよ。てかそっちも探せばあるだろ。富士宮ふじのみややきそばくらい」


「妹は下宿と学校を結ぶ道以外を通ると迷子になるのです」


「ちょっとデカいスーパーへの道くらい開拓しろよ」


「妹もそう思って、こないだお総菜を買いに行こうとチャレンジしたのです」


「ほう。たどり着けたのか」


「気付いたときには中華街にいました」


「神奈川まで行ってるじゃねーか」


「知っていますけど?」


「知っていますけどじゃねーよ。それでこないだ急に胡麻ゴマ団子送ってきたのか」


「どうでしたか?」


「いやメチャクチャうまかったよ。中華街の点心えげつねーな。あーわかったよ。米と野菜と焼きそばな」


「はい。ふふふ」


「なんだよ」


「相変わらず兄は妹に甘いですね」


「何言ってもお前に響かねーからだろ。諦めてんだよ」


「でも本当は違うのですよね?」


「……面倒くせーなー」


「ね?」


「はー。もーわかったわかった。芙美が好きだからだよ」


「知っていますけど?」


「知っていますけどじゃ……もしもし? もしもし? あいつ切りやがった。まったく……」


「……明日、精米しにいかねーとな」

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