第29話

 気づいたときはには追っ手の姿はなくなっていた。シヴァの狙いは召喚術師連合を使って雪花を自分の手を汚さず消すということだったが、これではその本懐は遂げられないだろう。

 そこで雪花は考える。もし他にも目的があって、その目的を達するために自分を囮に使っていたとしたら。都市の案内で颯人が言っていたことを思い出す。確かこの都市の結界はとある機械によって生み出されているのでなかったか。

――結界発生装置。

 あらゆる方角から感じる幻獣の気配と召喚術師たちが追ってこなくなったのも、自分に注意が向いて警備が手薄になったところを狙って破壊したとしたら合点がいく。今ごろ、どの召喚術師たちも大量に出現した幻獣に手を焼いているのだろう。

 そう考えると、どこまでもまんまとシヴァの手のひらで踊らされていたのだと、笑いが出てくる。

 とはいえ、追われる身でなくなったのも事実だ。考えをまとめたところでやっと一息つこうとした雪花だったが、そこで新たな闖入者が現れ、その対応に追われていた。

「これで……最後!」

 小太刀で敵意むき出しで襲いかかってくる幻獣に致命傷を与える。幻獣が消え失せて、今度こそしばしの休息を得ることができた。人間よりは頑丈にできている幻獣とはいえ、切れることのない連戦はさすがに堪える。落ち着ける時間が必要なのだ。

「もう、颯人から離れて活動してから何時間が経ったんだろう……」

 いつからか数えることを忘れてしまっていたが、それでも何時間というレベルではなく、すでに何日何時間という段階にあるだろうということは体感で分かっていた。このままいけば、自分が消えてしまうということも。

「せっかく守護獣ができたアイツには悪いけど……アタシ、消えちゃうかもね」

 自嘲的に笑う。源一郎の決死を無駄にしないためにも、シヴァとの最後の決戦に挑むことも、消えてしまうかもしれないことも覚悟はできている。それでも名残惜しく感じてしまうのは、颯人との時間を知らないうちに楽しかったあの日々と重ねてしまっていたのかもしれない。

「消えるのは……アタシひとりでいい」

 だからこそ、雪花は思う。もう一度楽しかったあの頃の気持ちを思い出させてくれた日々とその時間をくれた颯人を守らねばならぬ、と。

 幻獣として活動できる限界まであとどれくらいであるかは分からない。別れが惜しくなってしまう前に決着をつけなければならない。

 颯人の話では結界発生装置は東西南北にひとつずつある。北の方角から様々な気配に混ざりながらもシヴァの気配が流れ込んでくる。ということはおそらくは北にある結界発生装置にいるはずだろう。

 この推測自体、もしかしたら外れているのかもしれない。それでも前に進むしかない。自分の感覚を信じて進むしかほかに道はないのだ。

「この都市とアイツはアタシが守ってみせる……!」

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