第11話
「あ、動き出した。行くわよ、シエラさん」
「な、なんでこんな探偵みたいなこと……」
道路の両脇に植えられた生け垣の陰から、颯人と雪花をバレるかバレないかぎりぎりの距離感を保ちながら見つめる二人組の姿があった。
「ベレスフォードさん。これじゃ完全に不審者ですよ」
「なに言ってるよ。たまたま私たちが歩く前に彼らがいるだけじゃない。なにも問題はないわ」
全く気に留めることのない堂々とした様子のティナにシエラは嘆息を漏らした。ここまで開き直られると逆に反応に困る。
「完全にベレスフォードさんの私情が介在しているとしか思えないんですけど、私が着いてくる必要あったんですか?」
「あなたがいないと、私が不審者に見えるじゃない」
尾行している時点ですでに不審者にしか見えないことは言わないでおいたシエラであった。
「今回の目的は端的に言って敵情視察。負けたままだと悔しいの」
そういうティナの目はメラメラと闘志を燃やしている。近くにいるこっちまで熱くなりそうなほどだ。これほどの熱意にはある種の敬意すら払いたくなる。
「でも、こんな探偵紛いなことしなくても……」
「それはそれで必要よ。だって、なんか楽しそうじゃない?」
じゃないと訊かれても反応に困ってしまう。とりあえず曖昧な笑みを返した。
(颯人くんも大変だなぁ……)
内心、面倒な人に目をつけられた颯人を憂う。もし、対象が自分だったらどうだろうか。きっと気が気ではいられないだろうと思う。
「なにボサッとしてるの。早くしないと見失っちゃうわよ」
次第に見えなくなっていくふたりの姿を見て、急かすように言う。ティナの後ろを通り過ぎていく人々は変な所で立ち止まっている彼女を奇妙な目で見ている。
その時だ――。
「――」
一瞬、聞こえたノイズのような声。その直後に凍りつかせるような感覚が全身を駆け抜けた。そう感じさせるなにかがティナの背後を通り過ぎたのだ。
「――ッ!」
ほとんど反射的に振り向いていた。だが、そこには誰もおらず、見えるのは行き交う人の波だけだ。妙に思い、探そうと思ったティナだったが、この人の多さではもうとっくにこの雑踏の中に紛れ込んでしまっているだろう。その中から格好すら判然としていない特定の人物を見つけ出すのは不可能に近かった。
「な、なんだったの……?」
頬から冷や汗が滴り落ちた。召喚術師としての修行を積む中で何度か幻獣とは触れ合いその度に固有のマナを感じ取ってきたが、先ほど感じたマナはそのどれにも当てはまらないものだった。
結界の内側では召喚術師と契約していない幻獣はこちらの世界には来られない。それは絶対の理だ。それを仮になんらかの手法で掻い潜り、幻獣がこちらの世界に来たとなれば大騒ぎになる。もっといえば、それだけの力のある幻獣は得てして、それに見合った巨体を有していることがほとんどだ。目立たないはずがない。
「ベレスフォードさん? 颯人くんたち行っちゃいますよ」
シエラの声で我に返る。
「……ごめんなさい。少しボーっとしてて。行きましょう、シエラさん」
(気のせい……かしら)
今のところなんの騒ぎにもなっていない。ということはおそらく自分の気のせいだと結論づけた。
疑念は消えぬまま、ティナとシエラはふたりの後を追いかけた。
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