第8話

 理事長室から出て、ティナとも別れたあと、颯人はティナを連れて寮へと向かっていた。

「これからどこに行くのよ」

 ちょこちょこと颯人と比べて小さい歩幅で雪花がついてくる。やはりこうしてみると、まだあどけなさの残る子供に見える。

「寮だよ」

「都市の案内は?」

「してもよかったけど、もう遅いし、明日にしようと思うんだ」

 時刻は午後六時をちょうど過ぎたぐらいだった。西の空はすでに朱色に染まっており、わざわざ暗くなる時間から案内する必要もない。どうせ案内するなら明るい時間からのほうがいいだろう。明日に回したところで問題はない。

「まあアンタがそういうならいいけど」

 寮には程なくして到着した。入学当初は無駄に広い敷地もあって、よく迷ったことがあったが、今となっては庭も同然だ。

 颯人は玄関を通って部屋に入る。部屋は雑然としていた。基本的に寮はひとりにつきワンルームの広さが用意されている。周囲から相手にされてこなかった颯人が自室に人を入れることは皆無で、ゆえに片付ける必要性もなく自分にとって使い勝手のいい散らかり具合になってしまっていた。入って早々にしまったと思った颯人だったが、時すでに遅し。

「……だらしない」

 隣から聞こえてくる引くような声に頭を抱え、そして恥ずかしさのあまり顔を隠した。

 とりあえず、雪花を玄関に待たして、

「ちょっと待ってて。すぐに片づけるから」

 初めて家に彼女を連れてきた男の心境はきっとこんな感じなのだろう。手早く部屋を整理した。急ごしらえだが、なんとか人を入れられる状態にはなった。といっても、元がワンルームと狭く、広さの確保にはあまり効果がなかった。

 一通り片づけて、雪花の待つ玄関に戻ると、

「普段からキレイにしたらどうなの」

 正論を言われてぐうの音も出ない。

「ろくに人を入れたことなかったから、機会がなかったというか……」

 事実は事実なのだが、胡乱な目で雪花がこちらを見てくる。きっと言い訳がましく聞こえているのだろう。

「それでも汚いと思ったら、整理するのが人間じゃないの」

 まるで整理しない人が人間ではないような言い分だが、事実なのだから強く出られない。言い訳がましく聞こえてしまうのもきっとそのせいだろう。

「……まあ、今度からしっかりするよ」

 召喚術師が逆に守護獣から窘められるという主従逆転の間抜けな図であった。

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