第4話
「いつまで逃げ続けられるのかしら」
戦闘が始まって、しばらくティナの優勢は揺るがず、颯人は防戦一方だった。戦闘能力は皆無に等しいノーマンだが、その分機動力はそこそこあり、そのおかげでなんとか逃げ続けることができていた。
「ちょこまかと。フレクリザード、飛んで焼き払いなさい」
激しい突風を伴って、フレクリザードは空へと飛翔する。陽の光を遮って、地面に大きな影を落とす。
「ちょっ!? 周りお構いなしかよ!」
大きく息を吸い込んで、溢れんばかりの炎が地面に向けて放たれる。
「範囲外まで逃げろ!」
押し寄せる炎の波はとどまるところを知らず広がり続ける。機動力のあるノーマンもこれには回避しきれず炎に飲み込まれてしまう。
「付与魔術――障壁(シールド)」
とっさに颯人は付与魔術で炎によるダメージを軽減する。
「付与魔術に貴重なマナを使っていいのかしら。あなた、私のマナ切れを狙っているんでしょう」
「……バレてたか」
「マナ切れなんて、力に差がある人間が使う常套手段よ」
幻獣が現世で活動するには召喚術師のマナが不可欠になる。幻獣自体もマナを有しているが、それを使いすぎても形を保てなくなるので、その分を召喚術師が補うことで活動を可能としている。
「私がマナ切れを起こせば、守護獣は戻さなくいけなくなるし、そうなれば負けたようなもの。加えてさっきの戦いでも消費しているわけだから、妥当な作戦と言えるわね。なら――」
フレクリザードはノーマンを噛んで、乱暴に空へ放り投げる。そのまま颯人の前に落下し激しい音を立てる。
「ノーマ――」
右足がなかった。すぐフレクリザードのほうを見ると、無理やり引きちぎられたノーマンの右足を咥えていた。
「これでもう、回避はできないわ」
「くそ……」
ゴミを捨てるかのうようにフレクリザードは引きちぎった右足を放り投げる。
右足がなければノーマンの機動力を活かすことはできない。先ほどと同じように付与魔術で軽減するのも手だが、あれだけの大火力を完全に相殺しきろうとすれば、先にこちらのマナが底を尽きてしまう。
「これで最後よ。――フレクリザード!」
フレクリザードが紅蓮の業火を放つ。先ほどより火力は増大しており、完全に決めにきているのは間違いない。ここ一番の最大火力だ。
「負けるわけには……!」
一族のためにもここで負けるわけにはいかない。自分のことをどれだけ馬鹿にされようが、貶されようが、そんなのはどうだっていい。
けど、自分のせいで一族が馬鹿にされるのは耐えられなかった。
ティナと出会って分かった。どうしてティナが強いのか。それは強さへの飽くなき渇望だ。どれだけでも強くあろうとすること。ティナがレクターに挑んだのも己の強さの証明とよりいっそう強くなるためにだ。
では自分はどうだ。最初から諦めていたはずだ。自分はダメな奴だって。どうしようもない奴だって。自分の限界を自分で決めてしまう奴がどうして強くなれようか。
ティナ・ベレスフォードがどれだけ高い壁かなんて分かっている。どれだけ強いかなんて分かっている。どれだけ勝とうとしていることが無謀かなんて分かっている。
――それでも。
諦めたくない。
負けたくない。
強く――なりたい。
「――その心意気だけは認めてあげる」
ふたつに割れる業火
駆け抜ける影。
悲鳴を上げる赤竜。
「……え?」
颯人の目の前に――巫女服を身にまとい、狐の耳を生やした幼い少女が立っていた。
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