3-4.業ゆえに/真犯人
ところ変わって、別行動をとっていたカラセルのほう。
こちらはどこに向かっていたのかと言えば――
「失礼します。カラセルです。後輩パイロットのカラセルです」
「……なにかな、モグラの後輩くん」
託宣科:【シルバー・バレット】格納庫に来ていた。
科の長であるジェレインは今日も水の衣を纏う雨男スタイルでカラセルを出迎えて、銀の巨人のお膝元、二人のカードゲーマーが向かい合う。
「まあ、なんていうんですかね。この前の決闘の感想戦でもしておこうかなと思いまして」
「僕と?」
「そりゃまあ、対戦相手とやれれば一番ですけど。なにせ敵国民」
水音に紛れて小さく息を吐き、ジェレインはぽつぽつと語り出した。
「……地下の上がりというからね、どうなるかとは思ったが。まあ、見事な決闘だったよ」
「それはどうも」
「《貿易摩擦》が封じられてもうろたえることなく、自分の戦略を貫いた……。堂に入ったプレイスタイルだ。むしろ見ている僕らのほうが焦っていたくらいで……」
「それです。そこがやっぱり気になってる」カラセルが割って入った。
「なんで漏れてたんすかね、《貿易摩擦》。もう出回ってるカードならいくらでも情報集められるでしょーけど、他国の未発売カードのカード名とテキスト知ってるって。やばくないすか、諜報員」
「実にやばい。ゆえに、我々託宣科は現在のところ情報の流出経路特定を最優先に動いている」
「ですよねえ。や、おれとお嬢もそこの特定は急務だな~って思って。<デモ速>の管理人をちょっと突っついてきたとこなんです。なんも出てこなかったけど……」
ふっと気になったんすよ、と続けて。
「今の、こんなご時世に、こーいうフラゲサイトを放置してても大丈夫なのかなって。こーいうサイトの管理人がどっか他の国と繋がって、新カード情報を漏らす可能性。あるでしょう?」
「君ほどのカードゲーマーなら、言うまでもなくわかっているかと思ったが」
おや、とジェレインは片眉を吊り上げた。
「カードゲーマーというのは、本当に情報に飢える生き物だ。少しでも早く新カードの効果を知りたいと望む気持ちは消えない。サイトひとつを潰したところで、代わりのサイトが生まれるだけ……」
水のベールを一部だけ消すと、懐から一枚の写真を取り出す。
直後、手裏剣のように投擲されたその写真をカラセルは二本の指でキャッチ。
「――それは、どこの国でも同じこと」
確認すれば、そこに映っていたのはやはり一枚のカード。
《必滅のトライアングル》/永続スペル
このカードが場に存在する限り、お互いのプレイヤーは同時に3体以上のファミリアを使役することはできない。
3体目のファミリアが場に召喚された場合、そのプレイヤーは自分の場のファミリアが1体だけになるよう選んで破壊しなければならない。
「わが国にもこのようなカードがあったなら、先日の決闘はもう少し楽になったことかと思うよ」
「おれの側には影響ないですしね」どこまでも上っ面の会話。「……で、このカードは?」
裏面に赤い鳥のロゴマークを確認して、カラセルは写真をひらひらと振る。
「うちの国のカードじゃなさそうだ」
「この手の諜報活動も、託宣科の仕事のひとつでね。どこの国にも、<デモンコメット速報>のようなフラゲサイトというのはある」
当然、そこから漏れてくる情報というのも存在する――不敵にほほ笑むジェレインに、カラセルもぱちぱちと拍手を送る。
「どこの国でもそうなんだ。カードゲーマーの業ってやつですかね……」
「たぶん諦めているのだろう。この国も同じだ。潰すにも潰しきれないから放置している」
「で、そのせいで《貿易摩擦》の情報が漏れたってわけですね」
「<デモ速>からは何も出なかったという話だが?」
ちくりと毒を含ませた応酬、ほのかに漂う緊張感。先に切り出したのは、ジェレイン。
「で、……結局、何が言いたい?」
「お嬢の手前、黙ってましたけど。<デモ速>が漏洩元じゃないなら、あと考えられる線って、そりゃ……」
「末端から漏れたんでないなら、あとは中枢じゃないですか?」
しばらくの間沈黙があった。
「なるほど。――わが託宣科に、スパイが紛れ込んでいると」
「『わが』っていうか……『
軽い調子でジェレインを指さす。
流れ落ちる水のカーテンに遮られ、その表情は――カラセルからは読めない。
* * *
ひとまず合流しようと足取りを追ったところ「ジェレインに話があるから取り次いでくれと頼まれたのでそのまま通した」――という話を職場で寝っ転がっていたハクロー(下着を着ていたのでまだマシなほう)から聞かされ、ユーレイも託宣科へ足を向けることに。
「あ、こないだ来た変な格好の人らの……」みたいな顔をした【SEARCH】店員に気まずく頭を下げ、地下格納庫へ。
耳をそばだて、感覚を研ぎ澄まし、空間転移の術式が三回起動したのを感じてから、即座に部屋のドアを開け――
「――ぐぅえっ!」
「うわぁっ!?」た、直後、室内から飛来した謎の物体がドアに勢いよく衝突。
開けかかったドアが押し戻されて、ユーレイは思わず悲鳴を上げた。
「な、何事です!?」閉じたドアを強引に押し開け、「いてぇっ」それによってドアにもたれかかっていた男が跳ね飛ばされて転がったことには構わず、格納庫内に突入したユーレイは――
壁際に屹立する【シルバー・バレット】の、その足元に。
巨人の胸のあたりにまで達するほどの、巨大な、水晶の塊が鎮座していることに気づいたと同時――その水晶の前に、カードゲーム用の鋼鉄のスタッフを携えて立つ、ジェレインの姿を目視した。
「あがががが……、やあ、お嬢。いや、やっぱ強いよこの人」
打ち付けたらしい腰を痛そうにさすりながら、やはりカードゲーム用のスタッフを手にしたカラセルが歩み寄ってくる。
青く輝くサファイアの破片が周囲を旋回するその姿は、何をどう見てもカードゲーム中。相手は誰か? それも決まっている。
「……どういう状況ですか?」
「ほんと申し訳ないんだけど、その前におれも一個聞いていい?」
問いに答えないどころか逆に聞き返してきたカラセルに、真面目なユーレイは開いた口がふさがらないままで質問に答える。
「お嬢のお兄さんってさ、託宣科とは繋がりあった?」
「……兄は、【シルバー・バレット】の、パイロットに……選ばれた身です。託宣科との関わりも、それは、当然……」
「そうだよなあ。なんかろくでもない予感がしてきたよ……」
一人で納得するカラセルを、ユーレイは改めて問い詰めようとして――突如、水晶が真紅のレーザー光線を二人に向けて照射。
カラセルはとっさに浮遊ビットを砕いて魔力壁を生成、とっさのことに硬直するユーレイをその裏に引き込んで守る。
「あっ、……ありがとう、ございま……いや! いや、え……?」
「あいつだよ、真犯人」
「えっ?」油断なくスタッフを握りしめて。
薄青い魔力の壁越しに、カラセルは対戦相手をにらみつけた。
「《貿易摩擦》の情報漏らしたの、あいつだってさ。自分で認めた」
水晶を背に直立不動を決め込む、託宣科の長――ジェレイン。
頭の周辺のみ水のカーテンを取り払ったその素顔には――若者のように見える一方で、なぜだかひどく老けても見える、不思議な表情が湛えられていた。
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