3.フラゲ・制限改定・一極化

3-0.ある少年の昔話―②


 戦火に両親を失った、自分の年齢もわからない少年――そんな少年の昔話。

 <虹のリヴァイアサン>の扱い方を覚えたその少年は、今日も今日とて地下カードゲーム場に向かおうと路地を歩いていたところ、


「――ちょーどいいとこに出くわした。おいカラセル!」

「あん?」


 背後から肩を叩く声に振り返った。

 ぜいぜいと息を切らしているのは、すっかり見慣れてしまった銀髪。


「ほんとちょうどいいとこで会った。おまえを男前にしてやろう」

「は?」


 それだけ言って何事か呪文を唱え、銀髪は少年の頭をぺしりと叩く。

 別段強い力でもなかったその一撃は、なぜだか叩かれた少年にとっては目から火花が飛び出るほどの衝撃。


「……は? は? なんだこれ。え?」

「じゃ、あとよろしく」


 くらくらと目を回す少年を置き去りに銀髪は走り去り、

 なんなんだよ一体、と悪態を吐く暇もなく、背後から怒声。


「いたぞ! 銀髪のガキだ!」

「……は?」


 その前日が雨だったというのもあって。

 たまたま足元に広がっていた水たまりを覗き込んだ少年は――

 紺色だったはずの自分の髪が、それはそれは見事な銀髪に変わっていると気がついた。


「馬鹿が! 着替えた程度でごまかせると思いやがって!」

「てめーのその髪の毛は一度見たら忘れねえ!!」

「…………は!?」


 ついでに、後ろから迫りくる筋骨隆々の暴漢どもがどう見ても人違いの殺意を迸らせていることにも気がついて、とにもかくにも必死で逃げた。




「いや、デッキ診断頼まれたんだよ。テメーが最近噂の強えガキか、って。ひとつ俺のデッキがどんなもんか診てくれよって」

「……それが、なんでああなったわけだよ?」


 命からがら逃げ延びた少年が【グッドスタッフが人生の近道】を訪れたところ、そこにはカウンター席に悠然と腰かける銀髪の姿があった。そういうわけで、釈明会見の時間。


「だから言ってやったんだよ。これ紙束じゃなくてデッキだったんだって」

「んなもんキレられんに決まってんだろうよ……」

「いやそうじゃなくてさ、<デュアルホール・シャッター>はこの使い方だと<水晶薔薇の霊竜>の完全下位互換だから死んだほうがいいって言いたかったんだよおれは」

「変わんねえよ。っていうかこの髪戻んの?」

「<デュアルホール・シャッター>には<デュアルホール・シャッター>なりの使い道がある。それを探せって言いたかったんだけど」

「っていうか、おれのこの髪どうしてくれんの?」

「……あいつもさあ。おれの真似なんかしなくていいと思うんだけどなー……」

「なあ。どうしてくれんのこの髪?」

「うるさいなあ。一日……三日……一週間……、……年内? くらいには、たぶん戻ると思うから、ごちゃごちゃ言うなって」

「いっぺん死んでこいよクソ野郎……」


 ――そんなことがあって、でも、その銀髪の少年は、ある日を境にふっつりと地下カードゲーム場に現れなくなった。

 立派な家の出なのだろうということは地下の少年にもわかっていたから、きっといろいろ都合があるのだろう、もしくは単に飽きたのだろうと、消えたこと自体についてはさほど不思議がってもいない。

 ただ、自分にカードゲームを教えてくれたその少年との記憶の数々は、彼の頭の中にしっかりと刻み付けられることとなった。それだけだ。

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