2-11.『前哨戦』―④
「身を削る徹夜作業の成果は翌朝に現れる。《
《マテリアル・プランクトン》を手札に加えた敵機を尻目に、カラセルは拾ったばかりの《クロノス・レイド》を捨てた。
「手札を捨てて《スクラップ・ディテクター》発動! おれの墓地は現在九枚!」
デッキトップから九枚を確認し、うち一枚を手札に回収。そのカードを即座に使用する。
「スペル発動、《強欲の帳尻合わせ》。手札から一枚と墓地から一枚、計二枚のカードをデッキの一番下に戻し――カードを二枚ドローする!」
手札で使い道をなくしていた《貿易摩擦》、ならびに《一点探査!》でひっそりと捨てられた《ID-ビジュアライズ・ボム》の二枚をデッキの底に送り、手札を交換する。
敵魔導巨兵【コンセプター】は、城塞のようにそびえ立つ鯨の背に乗ったまま動こうともしない。
互いの場に上級ファミリアが出て、ここからが本当の勝負といったところだが――正味の戦局は。
「どういう理屈かはわかりませんが、《貿易摩擦》は読まれていました。……ここから、どう戦います?」
「どう戦うもなにもだよ……、用意した対策が空振りってなったら、あとはもう自力の勝負じゃない? 自分のデッキの動きをどこまで押し付けられるかがカギですね!」
――だからですね、その自力で負けているとジェレインさんが言ったのですよ!
などと口に出す暇もなく、頭上の黒雲から雷鳴が轟く。永続スペルの効果は相手ターンでも使用が可能――
「《
「見たとこ、あれがリソース源だ。だからまずは修羅場をぶっ潰す――」
【シルバー・バレット】の胸部
海水を吸い上げるかのごとく。
群青色の魔力が、渦を巻きながら砲口に吸い込まれてゆく――
「《ディスペリング・ストーム》を発動、《徹夜の作業現場》の効果を打ち消して破壊する!」
彗星のように尾を引く光線がまっすぐに【コンセプター】を襲い――激突。
激震に噴き上がる海水と魔力が、視界を青一色に閉ざし――
「――《
【シルバー・バレット】のモニターに突如一枚のカードテキストが表示された。
《
―効果なし―
・「ランチャー・トークン」 … 3/1
・「シールド・トークン」 … 0/3
最後まで目を通す時間などない。
カラセルの舌打ちで現実に引き戻されたユーレイは――無傷の【コンセプター】をすっぽりと覆う、ドーム状のバリアを目視。効いていないと理解したその直後、
周辺一帯の水かさが、急速に減っていくような錯覚に襲われた。
水かさ? ちがう。ここは海。そんな急に減るはずはない――
「手札の《設計図》一枚を相手に見せて発動。手札およびフィールドから、《マテリアル》ファミリアを任意の枚数墓地に送り……《設計図》に記されたトークンを、その枚数分召喚する」
――ちがう。鯨が水を飲んでいる!
大口を開けた鯨が、猛然と、渦潮を作りかねないほどの勢いで。大海原に一点のダム穴を開けるほどの勢いで、周囲の水を吸い込んでいる。
とっさにブースターを吹かせて高空へと距離を取ったユーレイは、その途中、数匹の巨大な魚が水と一緒に飲み込まれるのを見た。
「《
鯨の背負った真四角の箱が起動、緑色のランプが灯ると同時に上部ハッチが展開。
排紙トレイがオープンする――
「《
鯨が盛大に潮を吹いた。
飲み込んだ海水と魚たちは水と魔力の混ざった霧と化し、それが鯨ごと【コンセプター】を包み込む。
「三枚の《
「自分の場のカードが、攻撃・もしくはカード効果の対象になったとき。その身代わりになる効果が備わっている」
「――驚きましたわ。あの野蛮人の国に予習という概念があったなんて」ならば説明は要らないと思いますが、などと付け加え。
「《夢現の鯨》の効果によって、《マテリアル・プランクトン》が墓地に送られたとき。私は、墓地から《マテリアル》と名のつくファミリアを二枚手札に戻す」
《マテリアル・マンタレイ》および《マテリアル・スモールフィッシュ》:すなわち鯨の弾丸を補充。
戦力供給源とみられる《
「――《虹のリヴァイアサン》!」
鯨の陰に霞んでいた巨体。魔力によってその身体を形成している《虹のリヴァイアサン》が、光の粒子となって消滅する。
虹色の粒子は螺旋を描いて【シルバー・バレット】の元へと飛来――銀の巨人の手の中に集まり、再び実体を生み出した。
「《夢現の鯨》の攻撃力はゼロ、バトルを仕掛けても損害を負うことはない……けれど、《虹のリヴァイアサン》は既に二回効果を使っています!」
「倒せもしないって言うんだろ? でもねお嬢、仕掛けてみないことにはなんにも始まらない!」
それは、絶大な力を有する魔導巨兵にしか扱えない、魔導巨兵の決闘以外で見ることはまずありえない形態。
下手をすれば【シルバー・バレット】の全長を超えるかもしれない――長大な刃渡りを有した、大剣。
紺碧の大剣へと変化した《虹のリヴァイアサン》を両手に構え、【シルバー・バレット】は背部ブースターを点火。《リヴァイアサン》の攻撃力は二点下がって現在三点、《夢現の鯨》の耐久力は五点。だが、
「《虹のリヴァイアサン》で、《夢現の鯨》を攻撃!」
銀の巨人は霧中に潜む敵機めがけて空中を駆けた。狙いは【コンセプター】ではなく、その足元を泳ぐ鯨。
高く振り上げた海竜の刃が、雲の切れ間、一筋差し込んだ月の光を反射して「無駄だと言っているでしょうに!」霧の中から蜘蛛が飛び出した。
【シルバー・バレット】が《虹のリヴァイアサン》を武装形態としたように、【コンセプター】もまた、その全身をすっぽりと覆うほどの――
「《シールド・トークン》効果発動。その攻撃の身代わりになる!」
剣と盾のぶつかり合う衝撃波。
熾烈な鍔迫り合い、腕部パーツにみちみちと怒張する筋肉を幻視してしまいそうなほどに緊密な時間が数秒あって――
盾は粉々に砕け散ったが、蜘蛛はその足の一本で銀巨人を蹴り飛ばした。が、
「《虹のリヴァイアサンの効果発動!」吹き飛ぶその勢いに逆らわず、【シルバー・バレット】は大剣を光らせる。
「《トリコロール・バースト》をパージして、その効果を今ここで使う。デッキの上から三枚墓地に送り! 敵ファミリアに三点のダメージだ!」
光の鞘に覆われた剣を一閃、振り抜き――三日月状のエネルギー波が《夢現の鯨》に襲いかかり、
「大変な失礼をいたしました」やはり【コンセプター】がこれを防いだ。「地下の出ということでしたもの。"みっつ"なんて大きな数字を、数えろというのは酷でしたわね?」
《トリコロール・バースト》を遮った三体目の《シールド・トークン》が、【コンセプター】の眼前で崩壊する。
攻め手すべてが《シールド・トークン》に防がれた形。歯噛みするユーレイ、カラセルも残り二枚の手札に目を落とし、そこで手を止める決断をした。
「おれは、これでターンエンド」
敵機ライフは二度の《徹夜》と《極道入稿》のコストによって四点削られ、残り十六点。一方、こちらのライフにはまだ傷ひとつついてはいない。
残りライフだけを見れば、こちらの優位といえる状況。ただし、実戦慣れしていないユーレイにも、この状況で残りライフだけを見て物を言うのは愚かなことだと、いい加減感じ取れていた。
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