第4話 強運な弟
赤子の頃、弟の心臓は一度止まった。
ある晩、いつものように家族で一列になって寝ていると、ふと母が目を覚ました。なんとなく我が子である息子を見ると違和感を感じた。
息を確かめると………呼吸をしていない。母は慌てて父を起こし救急車を呼ばせ、その間必死で人工呼吸を行った。
やがて救急車が来ると両親と生後一年に満たない弟は家からいなくなった。
幼かった私には爛々と光る赤いランプの車の後ろ姿と広く暗い部屋に一人残された記憶が今もある。
その後、弟の心臓は無事に動いた。気付くのがあと一歩遅ければ死んだか脳に障がいを持ったかもしれないと医者はいった。
そんな経験を経た弟は中学生になるまで私を『お姉ちゃん』と呼ばずに名前で呼んだ。その理由は私の身長が小さく弟にとっては友達でありライバルみたいな関係に思えていたためである。
幼稚園に通う位の時は仲が良く、いう事を聞いても小学生になればだんだんいう事をきかなくなった。
ある日の夕方、夜ご飯の準備をしていた母がもう夕食だから家の目の前の幼馴染の家で遊んでいる弟を呼んできてと私にいった。いわれた通り迎えに行くと弟はすぐに出てきたが、そのまま走って道路にでようとしていた。
「そんな走ったら車にぶつかるよ」
そう注意する私に対し、弟は少し後ろを向いて……
「へへっ、ぶつからないよ!バーカ」
と、暴言を吐いた。瞬間、車にぶつかった。
車は止まり、辺りには弟の鳴き声が響いた。
その騒ぎに先程まで弟が遊んでいた幼馴染の子たちは窓から顔を出し驚き、母もやってきた。自分の子が騒ぎの原因だと知らずに何事かと飛び出してきた母も息子を見て言葉がでなかったが、それも一瞬のことであった。すぐに救急車と警察を呼び冷静に対処した。
本人の証言によれば車は弟の片足の上にのったという。
その後の対応はスムーズに済み、足が痛くて動かないといっていた弟はなんと無傷だった。医者によれば骨にも何の異常もなく、ただ精神的にショックを受けたために動けないのだろうということで終わった。
ちなみに救急車を運転されていた方から『二十年以上この仕事をしているが車にぶつかってここまで無傷の人は初めて』といわれたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます