第8話 喧噪
教師に促され自転車置き場から少し離れた。駐車場に来た。
「危なかったね、ああいうデキの悪そうな奴が警察官になるとロクなことが無い。」
何となく藤塚先生が助けてくれた気はしたので「ありがとうございます」とお礼を言った。
「例には及ばんよ。」
藤塚先生はそういって振り返ると、僕は急にポーンと後ろ向きに飛ばされた。ガツンとした衝撃にくらくらして状況の把握をするべく体を起こそうとすると動かない。痺れるような痛みが腹部から感じられる。僕の制服は引き裂かれべっとりとした血が染み始めていた。
「油断したな剣の勇者。」
嫌な予感がして首を回して横を見ると大男も血まみれで片膝をついている。再度、藤塚先生を見ると伸ばした右手の周りに黒い刃の群れが渦巻き集っている。
「すまないな佐村君、君は何にも悪くないんだが。」
そう言いながら藤塚先生が呪文を唱えると、僕と彼の血が藤塚の足元に吸い寄せられていくのを見た。その瞬間、僕の脳裏に通学路で教えてもらったばかりの回復呪文がよぎる。薄れゆく意識の中で印を組み、低く呻くような呪文を唱えると傷がふさがっていくのが分かる。精神力は弱っていくが、僕は急速に回復し始めた。
「なぜお前如きが!?」
僕が回復し始めたのが気に障ったらしく、藤塚が僕の方に手を差し伸べた。多分、僕はトドメを刺されるのだろう。無力ってこういうことかと考えた次の瞬間、藤塚の手から黒い刃の嵐のようなものが僕に飛んできた。
「友達は死なせないよ。」
大きな体が僕と藤塚の間に割って入った。僕は穏やかな顔で致命傷を受けたであろう彼を見て、勇者とはどういう人間かを知った。
「巻き込んでごめんなさい。」
彼は微笑みから憤怒の表情に変わると、今度は僕に背を向け藤塚に向き直った。
「ウラァァァァァ!!!!!」
地を揺るがすような声だった。
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