第6話 魔剣

 翌日、僕が僕の部屋で学校へ行く支度をしていると、彼は父から貰った古いリュックを嬉しそうに眺めていた。しかし、すぐに険しい顔になる。


「昨夜は甘えてしまいましたが、このままここにいるわけにはいきません。魔術師をこちらから倒しに行かないと。」


僕が昨日の自転車置き場に案内する事を提案すると彼は僕と一緒に家を出た。僕の自転車は昨日置いてきたままなので、2人は徒歩で駅を目指す。


「そう言えば、魔法って僕でも使えるの?」


彼は少し考えると答えた。


「素質があれば可能です。これやってみてください。」


両手で印を組み、彼のするとおりに呪文を唱える。


「そこは響きがちょっと違います。」


翻訳の護符は会話する相手の言語に存在しない言葉は訳さないということで、呪文は全般的に耳慣れない音だった。低いうなり声のような音をどうにか真似すると彼は顔を輝かせた。


「そうそう!他の魔法はどうかわかりませんが、回復魔法は使えるようですよ!」

「本当に?逆に疲れたんだけど?」


彼の言うままに印を組み、呪文を唱えるとなんだかどっと疲れた。


「あなたの精神力が消費されたからです。」

「なるほど。」


彼は嬉しそうにしている。


「な…なんすか、ニヤニヤして。」


彼は


「私が最初におぼえたのも回復魔法だったんですよ。」


と言って微笑んだ。そして、少し微妙な顔をして「この呪文はどうですか?『剣よ』と言ってみてください。」と言った。


「それは日本語です。『剣よ』…こうですか?」


彼が持っていた剣の包みが低く唸った。


「今の呪文はこの剣を抜くための呪文です。単純な言葉なのであなたの世界にもあったのでしょうね。」


僕は何だか不服だった。


「そりゃあ、ありますよ。そんな簡単な呪文で良いんですか?」


彼は「いいんですよ。」と言って笑った。朝の通学路で私に素質がありそうだと分かったのは回復魔法だけだった。それでも、僕はワクワクしていた。ファンタジーの世界の住人に僕もなったんだと確信した。

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