第5話 魔術の痕跡
彼は回復魔法以外にもいくらか魔法が使えるようだ。僕が急に家に大男を連れて帰って混乱する両親と家族に何やら呪文を唱えると皆一様に落ち着きを取り戻した。
「この世界は本当にすごい。あなたの年齢で学校に通うのも『普通』、その『普通の家庭』の食事がこんなに豪華だなんて、私の世界では並の貴族でもこんな暮らしはしていません。ただ家が広いだけで王族でもなければこんなに裕福ではありません。」
小さなことにいちいち感動されて、またそれが嫌味に聞こえない。翻訳の護符を通さなくても彼が善良な人間だと分かる。
「長くつらい、危険な修行を積んだ人間にしか使えない魔術もいらない。『科学』は凄いですよ!」
スマホ、テレビ、電子レンジ、クーラーや冷蔵庫に至るまで掃除機以外のほぼすべての電化製品に彼は感動した。またガスコンロについては私の父と長く語り合っていた。
「魔法でもないのに一瞬で火が起こせる。煙も出ない。そしてその燃える気体が海を越えて遠くの国から運ばれてくる!」
父は何やら満足げだった。
「日本も私の爺さんの世代はかまどで火を起こしていたんですが、高度経済成長期であっという間に変わりましたな。米だって炊飯器が炊いておいてくれる。朝の食事の準備がモノの15分もあればできるわけです。」
「それはすごい!」
意外なことに父は異世界人の存在に順応するのが早かった。それを見ていると、僕が戸惑っているのがばからしくなってきた。夕食を食べながらテレビを見ていると、ここ最近、隣県で起きている連続変死事件が報道されている。
「本当にいやね」
母が呟くと大男は。
「魔術師の儀式かもしれません。」
と僕に耳打ちした。
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