第4話 質疑応答
彼は助けを呼んだ僕にお礼がしたかったのだと言った。
「そんな事より寝てなくてよかったんですか?」
「大丈夫です。この世界の治療はすごい。あんな大きな建物にあんな沢山の人間が働いていて、見たことも無いぐらいに清潔だった。あなたに感謝しています。素晴らしい薬のおかげで不思議とすぐに回復魔法が使えるようになりました。」
僕は立ち止った。
「回復魔法!?」
彼は困惑した。
「あれ?おかしいですね。『翻訳の護符』がなにか上手く伝えられなかったでしょうか。『回復魔法』という言葉がこの世界には無いのでしょうか?困りましたね。」
僕は首を振った。
「いや、あります。あるんですが…その…あるんですが、そんなものは無いんです。…いや、もしかすると僕が無いと思ってるだけで本当はあるのかな?」
「どういうことでしょうか?」
僕は懸命に言葉を選んだ。
「架空のモノなんです。」
「あー、この世界には回復魔法という言葉はあるけど存在はしない?」
僕は念を押した。
「そういうことです、魔法自体が架空のものです。」
彼は目を丸くした。
「ということはあの医師がたくさんいた四角い巨大な建物は魔法の力で作ったものではないと!?」
「そういうことです。建設会社が作ったんです。」
だんだん僕にも状況が分かってきた。
「『建築』の『会社』…あのような建物を専門に作る集団がいるということですね。」
「ちなみにさっきチラッと出てきた『翻訳の護符』っていうのも意味は分かりますがこの世界にはありません。」
彼は翻訳の護符を懐から取り出して見せてくれた。革のようなものにインクか何かで謎の図形と文字が書いてある。
「これを持っているから私は皆さんと会話ができます。」
「でしょうね。なんとなく分かってきました。」
彼は色々自分の事を教えてくれた。遠い世界から来たこと。その世界には家族や友人がいる事。剣を抜くには呪文が必要なこと。その剣に自分は選ばれて世界の調律を守る役目があること。
「しかし、おかしいですね。この世界に魔法が無いなら、私を召還した人間はどうやって私を召還したのでしょうか?」
「召喚された?」
彼は険しい顔つきになった。
「はい、私を召還して、私を殺し、剣の所有者になろうとした魔術師がいるのです。」
僕は今まで温和だったはずだった彼の厳めしい形相に身震いしながら尋ねた。
「じゃあ、さっきの怪我もそいつに?」
「はい、残忍で狡猾な、そして邪悪な魔術師です。」
彼の放つオーラと圧力に震えつつ、その彼を殺しかけた魔術師の恐ろしさを想像すると内臓が凍りそうな恐怖を感じた。
「多分、この近くにいます。」
最悪だ。
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