第3話 身元不明人
彼は朗らかな好人物だった。きっと生まれてきたときから誰にでも好かれる良い人間なんだろうと思った。警察は彼に様々なことを尋ねたけれど、彼の出身国について聞き出すことはできなかったようだ。そもそも、外国人かどうかも分からない。彼はやや丁寧過ぎる日本語を流暢に話したので日本人ではないかと警察の人は考え始めたようだ。「どこから来た」と尋ねると「遠い遠い土地」と答え、その先に続く土地の名前らしき単語は「エッサッサ」だか「エッセンス」だか上手く聞き取れない。はっきり発音しているのに日本語ではない響きで、彼がふざけているのでも警察をけむに巻こうとしているのでもないことも顔の表情から読み取れた。長い包みは中から剣のようなモノが出てきた。正確には「鞘に収まった剣のようなモノ」で、抜ける様子もないのでそういう形の民芸品か芝居やコスプレの小道具ではないかと結論が出た。地面に立てると僕の胸ほどの高さのもので、ずっしり重かったのは金属のようなものが使われているからだろうなと、何となくそう思った。看護師は最初運び込まれた時、大変に重傷で緊急手術の準備をしていたそうだが、手術室の準備と何種類かの注射をした段階で回復してしまったと大変に戸惑っていた。
「けがで記憶が混乱したんではなかろうか?」
警察官が出した結論はこうだった。
「身分証は持ってないが、日本語も流暢だし、顔や姿で外国人と決めつけるのは良くない。恐らく、演劇か何かやっとる人間で怪我の弾みで一時的に記憶が混乱しておるんだろう。数日、様子を見てやって欲しい。その間に記憶も戻るだろう。」
看護師は唖然としていたが、否定する材料もない。
「署でも行方不明者をあたってみます。」
そう言い残して警察は行ってしまった。僕はやっとお役御免になったと思い家に帰り始めたが、ふと気づくと彼がついてきていた。
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