第2話 出会い
死んでいると思った。でも、彼は動いていた。ボロボロの布にくるまった大柄な男性は浅い息で口を開いた。
「ここまでか」
「なにが!?」
思わず口をついた。彼は怪訝そうな顔をすると「追手じゃないのか」と呻いた。僕はとにかく大急ぎで救急車を呼ぼうと生まれて初めて119番をコールした。しばらくたつと自転車置き場は騒然となった。僕は何だか知らないけど彼に手渡された血で汚れた長い包みを持たされて病院へついて行く感じになってしまった。
「初対面なんだよね?」
「はい。」
上半身と腰、重そうに色々つけた警察官に病院で質問攻めにあった。
「なんであの場所にいたのかな?」
「自転車が置いてあるんです…今も置きっぱなしです。」
正直、もう帰りたかった。ぼろい包みはハナから重かったし、学校帰りだし、明日の予定もある。
「学校はどこに通ってるの?」
地元の警察官が僕の制服を見てわからないとか腹立たしさしかなかった。でも、それを口には出さない。僕は「あの時こう言ってやればよかった」とあとでウジウジ悩むタイプの人間だ。学校の名前を言い、生徒手帳を見せたあたりで状況が変わったようだ。どうやら彼は意識を取り戻したらしい。警察官と病院の人間が声を潜めて何か話している。
「その包み少し見せてもらえるかな?」
警察官にそう言われて「はい」と渡しかけた瞬間、「それは私のものだ」と声がした。警察官の後ろに背の高い外国人が立っている。さっきまで死にかけていた彼だと理解するのに少し時間がかかった。
「え?」
誰が発した声かは分からないが、さっきまで死にかけていた人間にはとても見えない。精悍で色黒な大男に促されて包みを渡すと、彼は病院着の上から血の付いたマントと思しき倒れていた時から身に着けていたボロ布をかけるとスタスタと歩き去ろうとしていた。足取りはいたって壮健だ。
「ちょっと!まだ動いちゃダメ!!」
救急から飛び出てきた看護師が制止すると、大男はしばらくその顔を見た。
「もう動ける。あなた方の助けに感謝している。」
看護師は「とにかく動ける状態じゃないから!傷が開いちゃうから!」といって男を救急に押し戻した。しばらくなんだか騒然としたが、大男は再び救急から出てきた。
「ありがとう、丁寧な治療に感謝している。」
そう言ってどこからか黄色い金属の粒を取り出した。
「あなたたちのお金を持っていない。これで足りるだろうか。」
何となくそんな気はしたが、それは黄金だった。僕は生まれて初めて医療費を純金で支払おうとする人間を見た。
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