恵と倫也は結局相性いいんですよね 前

朝の騒動も終わり、朝ごはんも食べ終わった俺たちは、昨日話していた宇治に向かうために京都駅に来ていた。


「ふわぁっ、まだちょっと眠いね~」


「俺は誰かさんのせいでもう目が冴えちゃってるけどな」


「まあそんな細かいことは置いておいて、早くしないと電車出ちゃうよ?」


「は~、そうだな早いとこ行かないと今日は日曜だから混むもんな」


「そうだよ~、しかも今はシルバーウィークだからね」


俺たちはそんなことを言いつつ電車に乗り込んだ。


「しかし京都とはいえまだ9月は暑いな」


「そうだね。半袖着てきて良かったね」


そう、今年は過去類を見ない猛暑の夏で、残暑も厳しいので、それを見越して俺も恵も今回は半袖の服と念のためにカーディガンを持ってきてる程度の服装だ。


「しかし、こんな時間なのに人意外と多いな」


「そうだね。大体みんな考えてることは一緒なんじゃない?」


「確かにな。でもこのくらいだったら六天馬モールの時よりましだな」


「倫也くんがダウンした時だね。よく覚えてるよ。」


「うっ、そんなこともあったっけ…」


「しかも最終的に私のこと置いていって詩羽先輩のところに行ったんだったよね?」


「本当にすみません‼……でもあの時は恵も送り出してくれなかったっけ?」


「…私が快く送り出したと思う?そりゃ誘ったのは私からだったし欲しかったものも買えたから満足はしてたけどさ、さすがに一緒に出かけてる女子を置いて他の女の人詩羽先輩のところに行かれたらなにも思わないわけないよ!」


「ごめん、気をつけるよ」


「わかったならいいんだけどね」


そんな去年のまだ俺たちが出会って日も浅い頃原作第2巻の話を思い出しながら話をしているうちに、電車は古風な街並みを抜け、家々も減り、宇治に近づいていた。


「そういえばというか」


「え?」


「どうして恵は宇治に、もっと大元で言えば京都に行こうと思ったんだ?もっと近場とかでもよかったんじゃないか?」


「……もしかして私と一緒だと嫌だった?」


「いやいや全然そういうわけじゃなくて、単純に気になったんだ」


「う~ん、昨日も言ったけど、この旅行自体に意味は特にないんだけど、私京都に行ったことがなかったから行ってみたいな~なんて思って」


「あれ?中学の修学旅行で行かなかったっけ?」


「私のところは北海道に行ったから京都は初めてなんだ」


「そうだったんだ」


ここで俺と恵が中学も一緒だったという可能性は潰えてしまった(別に一緒じゃないといけないわけではないけど)けれど、京都が初めてって言うのを聞いて、俺は昨日の行動を反省していた。それもそうだ。なんせ初めての京都なのに初日から俺のわがままでアニメショップ巡りに付き合ってもらってしまったんだ。だから今日からの3日間は恵の行きたいところになるべく連れて行きたいな……

とか考えてたら、


「倫也くん、もうすぐ宇治に着くよ?」


「わかった。じゃあ降りる準備でもするか」


もう宇治に着いてしまった。


「こっちはちょっとひんやりしてるね」


「そうだな。まあカーディガン持ってきといて良かったな」


「ホントだね。京都にいたときは暑かったから本当にいるか疑問だったけど良かったよ」


「じゃあ恵が行きたいって言ってた平等院鳳凰堂見に行くか」


「うん」


そう言って恵は笑った。でもその顔に少し寂しげな色味があったような気がしたのは俺の気のせいなんだろうか。そんな少し引っかかるところはあったけど、そこに触れるのはやめて、平等院へと歩き始めた。


「そういえばさ」


「何?」


「恵って確か平等院よりも宇治抹茶飲みたいって言ってたよな?」


「そうだけど?」


「だよな。実はさ、すっかり忘れてたんだけど、俺さっき電車の中で修学旅行の話したじゃん?」


「そうだね」


「それで、俺だけ自由行動の時に宇治選んでさ。その時にすげーおいしい和菓子屋があったんだよ。そこ確か抹茶も美味しかったからそこいいんじゃないかなとか思ってみたんだけどさ、どうかな?」


「ん~?それでいいよ?」


「なんで疑問系なのかはまあいいとして、これでひとまず宇治の目的地は決まったな」


「そうだね」


「で、だ」


「な~に?」


「時間を考えて、これだけじゃ絶対に今日は時間が余る」


「そうだね~」


「ひとまず俺の頭の中では、京都に戻って、清水寺、まあ俺としてはその奥にある地主神社に行きたいんだけどどうかな?」


その俺の言葉に、恵は明らかに注:俺からすると動揺を見せていた。その理由はわかってるから、俺はちゃんと行くための根拠を考えていた。


「何で?……あそこって確か恋愛成就のところだったよね?」


恵のこの反応は完全に俺の予想通り、だから俺が作り上げた根拠を述べようとしたときだった。


「ああ、そうだけ「行こうよ!私も成就させたい相手がいるから」」


ん?何かちょっと聞き捨てならないことを恵が言った気がしたな。


「恵、今なんて言った?」


「だから、私も恋愛を成就させたい相手がいるから地主神社行きたいなっていう話をしたんだよ?」


「なっ⁉恵、おまっ、それって…」


「そうだよ、私今好きな人がいるんだよ」


「これって聞くことじゃないのはわかってるけど、誰……なんだ?」


「それはさすがの私でも答えられるものじゃないよ。もしどうしても知りたいっていうなら、とりあえずこの旅行が終わってからだよ」


「は~、わかったよ。というか平等院着いたみたいだぞ?」


「そうだね」


そう会話する俺たちの間の空気が気まずい感じだったのは言うまでもないことだと思うが敢えて言う。めっちゃ気まずいんですけど⁉


「倫也くん今気まずいな~って思ったでしょ?」


「っ!」


「思ったよね?」


「………は、はい」


「……心配しなくても、倫也くんがよく知る人だから大丈夫だよ?」


「…もしかして伊織か?」


「ぇ?」


「伊織なのか⁉今まであんなに犬猿の仲オーラ出してたのは超めんどくさい感じのツンデレだったのか⁉」


「…ちょっと一回黙ろっか倫也くん」


「は、はい…」


いつのまにか黒いオーラ詩羽以上を漂わせた恵が、いつもより、いや出会ってから1、2を争えるほどのフラットな声色で注意してくる。それはさながら魔王の逆鱗に触れてしまったかのような恐ろしさだった。


「また倫也くん失礼なこと考えてたでしょ?」


「うっ」


しかも、読心能力まですごいというおまけ付き。


「まあ心配しなくていいから。この旅が終わったらちゃんと話すからね、ほら、鳳凰堂きれいだよ?」


「そうだよな。せっかく誘ってくれたのに気まずくさせてごめんな。というかホントにきれいだな」


当たり前の感想しか出てこないのは置いておいて、俺たちは平等院を楽しんだ後、俺の思い出?の場所である和菓子屋へと向かった。


「おいしいね」


人は本当に美味しいものを食べると、シンプルな感想しか出てこないなとか思いながらも、恵も満足していたようで、さっきまでの気まずい雰囲気はどこかへ吹き飛んでいた。

そんなこんなあり、俺たちは、宇治での観光を終えて次なる目的地、清水寺へと向かうのであった………………

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