ライブ会場では、色々あって大変でした(恵が)

午後5時。京都の某ライブハウスにて…


「ここが美智留達のライブ会場か」


「そうみたいだけど、1時間前はちょっと早すぎたんじゃないかな?」


「そうか?でも一応開場は4時半とかになってたから、大丈夫だろ」


「そうだね。まあ入ろうか」


「ああ…ってうわ⁉」


「どうしたの倫也くん?…すごい人の数だね。氷堂さん達ってこんなに人気なんだね」


「確かに不思議だな。秋葉原でこれならまだわかるけど京都で『icy tail』がここまで人気があるのは何でなんだろうな」


俺は単純にそこが疑問だった。でも答えたのはあいつだった。


「それはね、僕がこのグループの曲をカバー、オリジナルに関わらず、動画投稿サイトにアップしてるからだよ。おかげで今の総視聴回数は1000万回近くにのぼってるよ」


「…伊織」


そう、答えたのは、現『icy tail』プロデューサーにして前人気サークル『rouge en rouge』代表の波島伊織だった。


「まあ安心しなよ。ちゃんとゲームミュージックの方も制作してるからさ」


「それはいいんだが、美智留達はスケジュール的にというかなんというか…大丈夫なのか?」


「うん、氷堂さんはライブが決まってから、集中力がさらに増したみたいでどんどん曲も出来上がっているよ」


「なんか美智留らしいな。……あれ?恵どこ行った?」


「僕が君に話しかけたときにはもういなかったけど?」


「……あいつどんだけ伊織を嫌ってんだよ」


「ははっ。確かに僕の嫌われっぷりは相当なものみたいだね」


「まあその件に関して言えば、全面的に伊織が悪いもんな」


「僕はあのとき褒め言葉のつもりで言ったんだけどね」


「あれは俺でもディスられてるって思うわ」


「そうかい?まあもうどうしようもない感じではあるけどね」


「そうだな。もう諦めろ」


「そうするよ。ともかく今日のライブは楽しんでいってくれよ?倫也くんと加藤さんが来ることは氷堂さんたちにも伝えてはあるから。もしかしたら何かパフォーマンスしてくれるかもしれないよ?」


「いやいいから⁉」


そう言って伊織が消えた途端に、行方不明だった人物が戻ってきた。


「ごめんね倫也くん。ちょっと会場内を歩いてたら氷堂さんに会ったから、お話ししてたよ」


「すごいタイミングだな。ちょうど俺も伊織と「その話は今度にしてなかに入ろうか」」


「どんだけあいつのこと嫌いなんだよ⁉」


とかツッコミながら会場に入る。途中には物販のコーナーもあったけど、かなり盛況だったから、安心しつつステージの方を見てみるけど、開始30分前というのもあって美智留達はまだ登場してはいなかったけど、熱気はすごかった。


「すごいな恵」


「そうだね倫也くん」


俺達も、こんなありふれた言葉しか出てこないほどにはあがっていた。そして待ちわびること30分。遂に、美智留達『icy tail』が登場した………は良かったんだけど第一声から爆弾(俺と恵にとって)発言をしてきやがった。


「みんな~今日は来てくれてありがと~‼今日はだから、二人も楽しんでね~‼」


「「⁉」」


観客のみんながちょっとざわつき始め、俺と恵は頬を少し赤らめながら美智留の方を見ると、明らかにこっちを見ていた。しかもニヤニヤしてやがる。どう考えても確信犯である。まあ幸いにも俺たちがその話題の中心前プロデューサーと彼女だということに気づいている観客がいないところだけが唯一の救いである。まあどっちにしろメンバーのみんなには気づかれているので気まずいことに変わりはないんだけど……


そしてライブ開始から2時間が経ち、ラスト1曲になったところで美智留が最後にして最大(?)の爆弾を投下した。


「それじゃあ次が最後なんだけど」


「「え~‼」」


「まぁまぁ。その前に、歌ってほしい人がいるんだよね~」


この時はまだなにも気づかなかったんだ。次の一言が爆弾となる。


「最初に言ってた前プロデューサーと彼女ちゃんと私達って、同人ゲームを作ってるんだけど、それとは別で、彼女ちゃんも歌を出してるからさ。聞いてってもらえるかな?」


「「いいとも~‼」」


「いやそれ完全にメタネタじゃねーか⁉」


「じゃあそこにいる彼女ちゃん出ておいで~」


「これって行かないといけないのかな?」


「行かなくてもいい…って言いたいところだし、明らかにメタなネタが入ってくるからやめた方がいいけど、この観客の盛り上がりじゃ出ないわけにはいかないな。仕方ないだろ?まさか美智留とか伊織がここまでやらかしてくるとは思わなかったんだ。諦めて歌ってこい」


「は~仕方ないか。まあ完全に納得はいかないけど歌うしかないよね」


この時、恵の目が死んだ魚のようだったことは言うまでもない。


「お~来たね加藤ちゃん。じゃあやっぱりあれかな。加藤ちゃんには『M♭』を歌ってもらおうかな」


「お~‼」


「うわっ⁉完全にメタ確定じゃん⁉というか小説に出てこないし」


という俺の意味をなさない反論など聞こえるはずもなく、突如として始まった恵のライブは思いの外受けはよかった。



「は~、大変だったよ~」


「そうだな。お疲れ恵」


「ありがと~」


「じゃあちょっとだけ待っててくれるか?」


「いいけど……別に今回のことは気にしなくていいからね?」


「恵が気にしなくても俺が気にするんだよ」


「わかった。でも早くしてね?」


「それこそわかってるって」



「おい美智留」


そうしてやってきたのは、ステージ裏の控え室。


「ん?どしたトモ?」


「どしたじゃねーよ⁉何やらかしてくれてんの?」


「いや~、私からのちょっとした加藤ちゃんへの試練というかなんというか…」


「まあ過ぎたことは仕方ないにしても、伊織、俺たちの邪魔はするなって言わなかったか?」


「倫也くん、残念なんだけど、今回の件に関してだけは、僕は全く関知してなかったんだよ。つまり氷堂さん含め『icy tail』の独断で行ったことだよ」


「そうなのか?」


「うん。ちょっとやり過ぎちゃったって今更ながら反省してるんだけどね」


「遅いわ⁉」


「まあライブも無事終了したし、加藤ちゃんも上手かったことだし、今回は勘弁してよ」


「は~、まあこの件は恵も気にしなくていいって言ってたから不問にするけど、次こういうことしたら怒るからな」


「はいはい、わかってるって」


「まあ今日のライブ自体はよかったと思うよ。…明日からも頑張れよ美智留」


「トモ……」


「じゃあな」


「うん。またミーティングの時にね」


そう言って俺たちは別れ、俺は恵のもとに戻ってきた。


「それじゃあ晩ごはん食べに行こうか」


「そうだな」


こうして俺たちは、夜の京都の街へと店を探しに行くのであった……




一方その頃、『icy tail』1日目打ち上げ会場にて…


「……もうわかったから泣かないの」


「でもトモが~‼」


「せっかく産まれたときから一緒っていうアドバンテージがあったのにそれ活かして告白しないからだよ~」


「う~~‼」


美智留は、倫也に告白できず、恵に取られてしまったことを、今更ながらに後悔し、他のメンバーから慰められているところだった。

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