京都ってこんなに遠かったんだ……このタイトルで、すでに察する方もいるでしょう。あえて多くは語りません

「確か去年の春休みに新聞配達のアルバイト中だった倫也くんに風で飛ばされちゃった帽子を拾ってもらったのが出会いじゃないかな?」


「おう、簡潔に言うとそんな感じだな。でも俺はその時はまだその帽子の持ち主が恵だってのは知らなくって、俺としてはあの出会いには運命を感じたから、新学期が始まってからもずっとその帽子の持ち主を探してたんだ。」


「ふ~ん?ずっと探してたんだ。」


「ああ‼あの日恵と会ったおかげで『cherry blessing~巡る恵みの物語~』を作ろうと思ったんだから。でも新学期が始まってから1ヶ月近く見つからなくて諦めてた時に、恵が帽子の話をしてくれたんだよな?」


「確かそうだった気がするよ。クラスメイトだったのに、名前も覚えてくれてなかったんだよね?」


「あのときの恵は本当に存在感が薄かったからな~」


「ひどいよ~って言いたいところだけど、確かに倫也くんの言う通り影が薄かったっていう自覚はあるよ?そういう倫也くんは1年の時の出来事のおかげで学校の三大有名人の一人になったんだよね?」


「なにそれ⁉そんなの知らないんだけど⁉」


「その話は気になるわね?他の二人の事も教えてくれるかしら加藤さん?」


「はい。豊ヶ崎学園の三大有名人は、霞ヶ丘詩羽先輩と、英梨々、私たちの同級生の澤村・スペンサー・英梨々と、ここにいる倫也くんの三人で、詩羽先輩は、さっき倫也くんが言ってたみたいに、授業中もよく居眠りとかしてるのにつねに定期テストでは学年一位の成績をとってて、生徒や教師でも、気に入らないことがあれば遠慮なく言うところから、恐れられてたので、有名だったんです。」


「何だか詩ちゃんらしいわね。澤村さんは?」


「英梨々は日本とイギリスのハーフのお嬢様で、表の顔は誰にでも好意的に接していて、美術部のエースだったので、有名でした。後、英梨々も詩羽先輩も豊ヶ崎の二大美女としても有名でした。」


「そうなのね。じゃあ、最後、TAKIくんはどうして有名になったの?」


「倫也くんに関しては、とても倫也くんらしいんですけど、文化祭の時に、視聴覚室を使ってアニメの上映会をしようとしてたんです。それで、学校側から上映の許可をとるために毎日のように職員室に行って、最終的には教頭先生ともやりあって、許可をとったんですけど、その出来事で倫也くんは有名になったんです。」


「あれってそんなに目立ってたのか。まあ英梨々以外は悪い意味で有名になった感じだな。」


「へ~面白いことしたのねTAKIくん。……あっ、そういえば、TAKIくん『純情ヘクトパスカル』のファンサイトは開設しないの?」


「はい。本当は開設したいところではあるんですけど、今は特にうちの、blessing software の新作『冴えない彼女の育て方(仮)』のシナリオを作らないといけないし、残念ながら作れないんです。すみません。」


「まあ、詩ちゃんのほうも、『フィールズクロニクル』のシナリオ制作のせいで、こっちの方は進んでなくてね。ちょっとそこんところをマルズに直談判しようと思ってね。今回は茜についてきたんだよ。」


「町田さん、編集部のほうは大丈夫なんですか?」


「ちゃんと私の分の仕事は終わらせたから大丈夫よ?」


「さすがは敏腕副編集長ですね。」


「そんなこと言ったってなにもあげないわよ?」


「いえいえ、そんな目的で言ったわけじゃなくて、ただ純粋にすごいなと思って。」


「……っ」


「ふふっ。TAKIくんとはいえ褒められると嬉しいわね。じゃあ今回は特別に、プレゼントをあげるわ。」


「ホントですか?」


「ええ、色紙をあげる。」


「はあ、色紙ですか?」


「ええ、嵯峨野文雄先生の書き下ろしイラストに、嵯峨野先生と詩ちゃんのサイン付きで、どうよ?」


「そんな貴重なものいただいていいんですか⁉」


「ええ、安芸くんには、TAKIのファンサイトでお世話になったこともあるしね。」


「ありがとうございます‼」


さて皆様はお気づきだろうか?この会話の途中に1つ見覚えのある恵の音が入っていたことに。そう、またしても俺は恵そっちのけで町田さんと話し込んでしまったのである。


「もちろん2枚プレゼントよ?」


とウィンクしながら話す町田さん。2枚?とか俺は思ってしまったが、ふと隣を見て気づく。町田さんはちゃんと恵の分も考えて2枚と言っていたことに。俺は完全に存在を忘れていたというのに。


「さすがにひどいよ倫也くん。」


「悪い。声に出てたか。」


「ぜんぜん謝罪に心がこもってないよ⁉」


久々にちょっと感情の入った声で反論してくる恵。やっぱりこうやって改めて恵を見てみると、結構、いやかなりかわいいし、俺のオタイベにも多少の文句をいいながらも付き合ってくれるチョロさ、いや優しさも持ってる。うん、やっぱ俺は恵のこと……


「ん?倫也くんなにか言った?」


「ああ、いやなにも言ってないぞ?」


危なかった。危うく俺の告白を聞かれてしまうところだった。まあ俺としてもこんなチャンスは滅多にないだろうから、この旅行中に何とか告白できたらなと思う。


「そうかそうか。君も頑張れよ。」


「朱音さんいつ起きたの⁉というか声に出てた⁉」


「ああ、まあ私はちょっと地獄耳の気があるから聞こえただけだろう。ん?あははは!!」


「どうしたんですか?急に笑い出して。」


「いや、なんでもないよ。」


この時、もう一人俺の独り言が聞こえた人がいたが、その人物が誰なのかは朱音さんの反応で大体わかるかもしれない。

そうこうしているうちに、電車は名古屋を過ぎたが、京都まではもう少しかかりそうだった。

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