残念ながら、まだ京都には着きません。それもそう、車内にまたあの人がいたのですから

新幹線のホームにて待つこと10分弱、俺達が乗る『のぞみ』が到着し、恵は指定席を取ってくれていたらしく、二人がけの方の席を取っていたので、俺は恵に窓側の席に座ってもらい、コンビニで買ったお菓子を食べながら、のぞみは定刻通りの午前9時半、東京駅を出た。このまま何もないことを願っていたのだが、そうはいかない、どころではなかった。次の品川駅にて、俺達の前に座った乗客の女性二人組が原因だ。その二人組は、


「あれ?お前ら、どっか出かけるのはさっき見たけど、まさか二人で旅行か?柏木センセと霞センセが嫉妬しちまうぞ?良かったな、今乗ってるのが私とお苑だけで。」


「ちょっとそのお苑って呼び方痛々しい昔のオタクコミュニティの残骸みたいだからやめてってば。というか茜さっきもTAKI君に会ったの?」


「ああ。まさか新幹線が一緒で席が前後だとは思いもしなかったけど。」


そう、先程別れたはずのアニメ業界の神、紅坂朱音と、不死川ファンタスティック文庫副編集長にして、霞詩子担当編集の町田苑子まちだそのこ女史だった。


「なんでお二人が一緒に新幹線何か乗ってるんですか⁉」


俺は動揺を隠せず、少しわかりきっていることを聞いてしまった。


「今回もマルズとの打ち合わせだよ。でも今回は霞センセがいつ純情ヘクトパスカルの続刊の方に行かせるかとかそういう面も含めた話もするからお苑にも来てもらってるんだ。そういうお前たちはどこまで行くんだ?」


その質問に、俺が答えるよりも早く、


「今日から3泊4日で京都に行くんです。」


と、あまりこの二人に知ってほしくなかったところ3泊4日っていう情報まで答えたのは恵だった。フラットな声色ではあったが、その表情は少し、ほんの少しだけムッとした表情をしているように見えた。俺の勝手な推測だと、恐らくではあるが、二人きりだったのに邪魔されてしまったことに対しての表情だと思えた。


「3泊4日⁉そりゃホントに柏木センセと霞センセがいなくて良かったな。あいつらがいたら絶対仕事ほっぽりだしてお前らのとこに行っちまいそうだからな。特に霞センセの方だな。」


「それは同感ね。詩ちゃんだったら、何か適当に理由つけてTAKI君のとこに行くだけ行ってなんもできないヘタレっぷりを発揮しそうね。」


「まあこの事はあの二人には黙っとくから、カレカノ二人楽しんできなよ。」


「いやそういう関係じゃないですから⁉というか恵さっきは即レスで否定したんだから今回もちゃんと否定して⁉」


「そうだね~、そういう関係じゃないですよ~……………………今はまだ」


恵が、否定文の後になにかを付け加えていた気もするが、俺(鈍感難聴最低主人公)の耳には聞き取れなかったので、スルーする。しかし、前の二人には聞こえていたようで、


「加藤ちゃんだっけ?早いとこチャンスつかんどけよ!」


「詩ちゃんには悪いけど、こういうのは早い者勝ちだもんね。頑張ってね。」


という俺だけ何に対してかわからない応援をされていた。


このままだと、ずっとハブられてしまいそうだったので、俺は朱音さんと町田さん(朱音さんメイン)に質問をした。


「朱音さん、『フィールズクロニクル』の新作はどんな感じなんですか?」


「まあ順調とまでは言えないけど、まずまずといったところかな?一応霞センセのシナリオ面の方についてはほぼほぼ終了してるし、まあ柏木センセの方はまだ3分の1位残ってるけど、後1、2週間位は私の力で何とか延ばせるからね。」


「またそうやって無理やり延ばして‼そんなことしてるから茜がマルズからあまりよく思われてないんだよ⁉」


「別にマルズからどう思われようが構わないよ。私はただ、この『フィールズクロニクル』という作品がただ衰退の一途をたどっていくのが嫌だっただけなんだから。また神ゲーと呼ばれる作品を作ることができれば、それでいいんだよ。」


「そもそも衰退するのが嫌だからって理由だけで、フィールズクロニクルの次回作担当する時点でおかしいよ朱音さん⁉」


いつのまにかまた、俺は話からハブられかけて、朱音さんと町田さんの二人の話になってしまうところだった。しかし、まさか朱音さんがそんな理由で次回作担当に名乗りをあげるとは、規模は違えどやっぱり根底は一緒なのかな何て思ってしまう。

こんな話をしているうちに、電車は京都に着く…………わけもなく、前の電光掲示板には、「ただいま熱海駅を通過しました」と表示されていた。


「長いよ⁉」


「どうした?だいたいこういう話って時間はあんま経たないのに、内容だけは濃いもんだろ?」


「そうよ?茜は内容濃いのに話す文章量は短いから、無駄に疲れてくるのよね。まあ私くらいになると、白熱しすぎて降り過ごしちゃうことがあったりなかったりなんだけどね。」


「…っ」


「さすがは副編集長の町田さん‼確か朱音さんとは早応大の同級生だったんですよね?」


「ええ、そうよ。まあ茜は中退しちゃったけどね。」


とやっと俺も加われる話を見つけて、白熱し始めた。しかし皆さんはお気づきだろうか。この会話の中に1つだけ、「…っ」というものがあったことを。

そう、俺がハブられかけてたからという理由で、自分に合う話題を見つけたはいいが、今度は恵が、ハブられていたのである。いわゆるステルス的なレベルで。そして、白熱しはじめてから数十分経ち、電光掲示板が「ただいま三島駅を通過しました」と表示した頃、やっとのことで(俺はまだまだ足りなかったけど)朱音さんと町田さんとの話が終わり、というか二人とも徹夜明けだったらしく、深い眠りに落ち、本当に二人きりの時間が始まった。


「楽しそうだったね倫也くん~」


「恵、その無理やりフラットにしてる感じ逆に怖いからやめて⁉」


「………………………別に怒ってるわけじゃないから大丈夫だよ?」


「大丈夫じゃないから⁉その答え出すまでの無言の時間的にそれ絶対怒ってるやつだから⁉」


こうして、今度は、少し機嫌を損ねてしまったメインヒロインの好感度上昇イベントが始まる?

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