京都までの道中、いえいえ東京駅までの道中色々なことがありました。
まだあまり人々も起きていないような午前7時。なぜ知っているのかはわからないが、いつの間にか家の前には白いセダンが止まっていた。恵いわく、あれが恵のお兄さんの車らしいのだが、明らかに、車の感じがヤーさんな点には突っ込むことができなかった。うちは、都内だが都心ではないので、東京駅まで1時間弱かかってしまう。その時間をこの怖い雰囲気の車の中で過ごさなければならないのは、少し怖かった。でも、人間やらねばならぬときがある。なので、意を決して恵と共にお兄さんの車に乗った。そこで一言。
「うわ⁉」
「あ、お兄ちゃんおはよう。今日は東京駅までよろしくね。」
「任せといてくれ‼何てったって、あの恵が男の子と一緒に、それも俺と同系統のやつと一緒に行くんだ。気合い入れていくさ。」
恵はこの車に何度も乗ったことがあるだろうから、驚きもしないのかもしれないが、俺にとっては、驚きと興奮を隠せなかった。さっきお兄さんが言ったように、俺とお兄さんは同系統、つまりは同じオタク、それも俺にひけをとらないレベルのオタだったのだ‼なんという偶然、でもこんな兄を持ったのに、いやこんな兄を持ってしまったからこそ、恵はこういうジャンルに興味を持たなかったのだろう。そう、このお兄さんの車は世にも珍しい内装が痛車なのである。外見はただのセダンで、窓には目隠しで色がついているので、外からは分かりにくいが、乗ってみるとわかる。これはヤバいと俺でさえ思ってしまうほどの痛車、しかも、[
「わざわざすみません。東京駅まで送っていただけるとはありがたいのですが、この車、沙由佳メインの改造とはコアな感じですね。」
と挨拶がわりにこの改造を称賛すると、
「いやいや、『TAKI』君にそう言ってもらえると嬉しいよ。」
………………ん?
「……おい恵?もしかして」
「じゃあお兄ちゃん、よろしく。」
と、俺の恋メトのファンサイト管理人『TAKI』としての顔を恵のお兄さんが知っているという事実を恵に問いただそうとしたのを、何事もなくスルーすると、恵の声に応じ、車は戸惑いを隠せない俺と、いつも通りのフラットな恵、そして少しテンション高めな恵のお兄さん(運転)を乗せ、東京駅へ向けて走り出した。
「ところで、お兄さん」
「ちょっと仲間だし、お兄さんって呼び名はちょっとアレだから、俺涼って名前だから、気軽に涼って呼んでくれていいよ。」
「いえいえ、さすがに呼び捨てはこっちとしてもアレなので、涼さんって、詩子先生の新作、『純情ヘクトパスカル』はもう読まれました?」
「ああ、もちろん読んださ。君もそうだろうけど、ひとまず俺は、観賞用、保存用、布教用として、計15冊くらい買ったかな?」
「15冊ですか⁉俺でも10冊しか買ってないのに……」
「もうそれはどっちにしろすごいとは思うんだけど……」
「いや、恵、涼さんはすごいぞ?だって15冊ということは、13人には布教できるということだ。対して俺は、10冊、つまり8人にしか布教できないんだ。その差は少しのようででかいんだ‼」
「そんなことを熱弁されても……」
と早くも恵は話に付いていけなく、いや付いていかなくなってきていた。しかし、だからといって俺たちが話をやめることはなく、次に、今期のアニメについての評価が始まった。
「涼さんは今期は何を観てますか?」
「俺は『ロクでなし』とかかなぁ」
「それ俺も見てます‼グレン先生のあの普段はだらけてる感じなのに、いざというときに頼りになるとことかめっちゃいいですよね‼」
「おう‼でも俺はなんといっても、システィーナちゃんのツンデレな感じが好きなんだ‼」
「俺もそれはいいと思うんですが………」
「ん?どうした?」
「いえ、ちょっとツンデレというと、うちの幼馴染みを思い出してしまって。」
俺はこの時、何故か英梨々こと、幼馴染みの澤村・スペンサー・英梨々のことを思い出していた。まあそんなことは気にせず、涼さんと、他にも、『エロマンガ先生』とか、『フレームアームガールズ』など、今期のアニメについて討論を重ねていた。そして、新宿を少し過ぎた頃、今まで会話に参加してこなかった恵が、たった一言告げた。
「あれ?あそこにいる人、何か雑誌で見たことある気がする。」
「ふーん?どの人だよ?」
「ほら、あそこで信号待ってる赤い髪の人。」
「ん?…………⁉」
その恵が指さした先にいた人を見て、俺は二重の意味で言葉がでなかった。一重目はその人物について。恵が見つけた人物は、デビュー以来関わったすべての作品がメディアミックス化されるアニメ業界の神に等しい人物、そして、俺達「blessing software」から原画担当の英梨々と、シナリオ担当で黒髪ロングのヤンデレ系先輩の『霞詩子』こと霞ヶ丘詩羽先輩を半ば強引に大手ゲーム会社、『マルズ』のコアコンテンツ『フィールズクロニクル』の次回作の担当に引き抜いた因縁ある人物、『
「おう、いつぞやの、安芸倫也君だったかな?そしてお隣は加藤恵さん、だったかな?倫也君の彼女の」
「いえ、彼女じゃないです。」
「ちょっ⁉せめてもうちょっと間をあけてよ⁉」
と、恵のあまりにも早い否定に少し悲しい気持ちになりながら、俺は
「朱音さんこそこんなところでなにやってるんですか?」
「ん?ああ、私はちょっとお苑と話すことがあってな。今から不死川に行くとこだ。そういうお前たちはどこかに出かけるのか?」
「はい、ちょっと出かけるんです。」
「ほほう、なんか面白そうじゃないか。まあ楽しんでこいよ‼」
という謎の応援を俺もされたところで、朱音さんは時間が差し迫っているらしく、ここで別れた。まさか神との邂逅でこんな激励(なんにたいしてなのかは不明)をしてもらえるとは思ってもいなかった。かくいう涼さんは超大物をその目で見たことにより、軽い放心状態になりつつも、車を再び走らせ、何とか東京駅に着いた。ここで涼さんとは別れ、俺と恵は、京都行きの新幹線のホームへと向かう。
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