冴えない彼女との付き合い方

神崎あやめ

冴えない彼女っていうのが早くも崩れそうな今日この頃

俺は、安芸倫也。私立豊ヶ崎学園の3年生にして、「blessing software」の代表兼企画兼シナリオ担当兼ディレクターっていう御大層な役職つきの自称同人作家。今は新作の[冴えない彼女の育て方(仮)]を鋭意制作中な訳で、現在自宅でシナリオを必死に練ってるんだけど


「………なんでお前がいるんだ恵」


明らかに家の人間じゃない人物が一人、なんの違和感もなく部屋でスマホをいじっていた。


彼女の名前は、加藤恵。俺と同じく私立豊ヶ崎学園の3年生で、「blessing software」の副代表兼サブディレクター兼という、俺なんかよりもっと意味のわからない役職を幸か不幸か持ってしまった、元簡単チョロい系、現在キレるとヤバイ系ブラックヒロイン。


「ん~?呼んだのは倫也くんな上に、ブラックヒロインとかディスられても何だかな~って感じなんだけど、私がおかしいのかな?」


「いえいえ滅相もございませんというか普通にすいません呼んだの忘れててすいません‼」


とか叫びながら過ごす、9月3週目の週末、日付でいうと21日。まあこんな時間に男女二人、しかも男子の部屋にいるにも関わらず、何もないことはさておき、俺と恵は現在鋭意制作中の「blessing software」発のゲーム第2弾、[冴えない彼女の育て方(仮)]のメインルート、巡璃ルートのシナリオを作っていた。なぜ恵もここにいるのかは、呼んでおいて失礼だが、正直、空気的な位置に今いるので、よくわからなくなっている。


「そんなこと言うなら帰ってもいい?」


「いやいや必要だから‼正直来てもらったのにやることなんもないけど、恵はここに必要だから‼」


「私にやることがないならせっかくの週末だし、どこかに出かけたいところではあるんだけどどうかな?」


「うっ…………………よし‼じゃあ今日は一緒に出かけるか。」


「倫也くんならそう言うと思ってたよ。」


今日もこれだ。去年は俺が主導で恵を振り回してた(まあそれもどうかと思うのはさておき)んだけど、今では、恵の空気に流されてしまうようになった。まあそんな流れを嫌とは思わない自分もいて。やっぱり、早く伝えないとと思う。


「倫也くん?何を早く伝えたいの?」


「おわっ⁉何でもないよ。というか、出かけるったってどこ行くんだ?六天場はもう大分行き尽くした感があるし、豊楽園ゆうえんちもこの前いったろ?」


「今回はそんな近場じゃないよ?」


「へ⁉」


「そうだ、京都に行こう~」


「…………………え?」

「え~~~~~⁉」


恵からのまさかの宣告。まあ確かに今年はシルバーウィークとか言われてて、5連休ではあるけど、恵が、フラットなノリで、俺を旅行に誘うなんて衝撃的だった。でも、大きな問題が、


「俺、京都まで行くほど金持ってないぞ?」


そう、金銭問題。俺は、一応1年の時に担任とやりあって、アルバイトの許可を勝ち取ってから、今年の3月まではアルバイトを続けたから、そこそこは貯めた。でも、今年度のblessing softwareの活動資金の一部とアニメグッズにほとんど使ってしまった。それでも多少というか、普通に豊楽園ゆうえんちとか、六天場モールとかで遊ぶくらいのお金は、余裕であった。でもさすがに京都まで行くほどのお金は残っていなかったので、俺は恵にそう伝えたのだが、恵の答えは、


「それなら大丈夫だよ?もう既に往復の新幹線の切符とホテル代は、お兄ちゃんを通じて払ってあるから。」


「え⁉じゃあ恵いつからこれを計画してたんだよ⁉」


「う~ん、夏休みくらいからかな?」


「なんでだよ⁉」


「う~ん、そこを問われるとなにも言えないんだけど」


「何か言って⁉」


「まあ、決まったことだし、切符代とかもったいないから、準備して行こっか。」


「ところで恵」


「な~に?」


「よく親御さん達の許可が取れたな?」


「うん、なんでかわからないけど、どっちも頑張れって謎の応援をされたよ?」


ギクッ

恵の両親は中々に鋭い目をお持ちでいらっしゃるようで、俺の心情も把握されているようで少し背中に冷や汗が流れた。何はともあれ、こうして、急にシルバーウィークを使った恵との京都旅行が始まる。


「ところで恵、荷物は持っていかないのか?」


「何か今日はたまたまお兄ちゃんが休みらしくて、ここまで迎えに来てくれるって。だから、荷物はお兄ちゃんに預けてるよ?」


なっ⁉

早くも修羅場到来の予感。まあ気を取り直して、


「それと日程なんだけど、3泊4日だから、よろしくね。」


「っおい‼4日も外泊とか、親になんも言ってないから⁉行けないから⁉」


「でもこの前倫也くんのお母さんと会ったときにこの話したら、「倫也のことよろしく」って託されたから大丈夫だよ?」


まさかうちの親まで知っていたとは。でもある意味ありがたい。これで、絶好のチャンスが生まれたのだから。でも今は、恵のお兄さんにご迷惑をかけないように、4日分の荷物の準備を急いで始めた。

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