第5話
「紙に書いてあった場所はここだな」
俺と琥珀と紫先生は、堅土の忍ばせた地図に指定された場所に来ていた。
そこには、港に良くある工場跡地の様な施設が乱立している、とても広大な建物がそびえ立っていた。
「では予定通り、正面突破で行こう。ここは警戒の為のセキュリティが網の目のように張り巡らされているからな。下手に奇をてらった作戦よりも正面から突破した方が上手くいくだろう」
紫先生に言われて、よく見てみると、研究所の近くには
「では行こうか。二人共、耳を塞いで入口を全力で走り抜ける準備をしろ」
そう言って紫先生は手のひら大くらいの黒くて丸い玉を三つほど研究所の入口付近に投げ込んだ。
「「……ッ!誰だ」」
黒服が叫ぶ。だが次の瞬間、それは絶叫に変わることになる。
紫先生が手のひらから炎を出して、投げた三つの黒い玉に向かって火を放ったのだ。
ドゴーン!!と、大きな轟音を立てて発生した大爆発によって、研究所の入口諸共、黒服や地面が盛大に吹っ飛んだ。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」
「行くぞッ!!走れッ!!」
「「む、むちゃくちゃだー!!!」」
爆発によってクレーターを生み出すほどの、紫先生の強行突破に、俺と琥珀は半ばやけくそ気味になりながら、研究所に侵入するのだった。
そして、紫先生は爆発によって開けた入り口を黒服の男性達から遮るように、陣取った。
「さぁて、お前らの相手はこの私だ」
※ ※ ※
建物の中は開いた構造をしており、別段迷うことは無かった。
但し、同時にそれは敵にとっても、俺達を見つけやすいと言うこと。
「琥珀、止まれ!」
「っ!!」
琥珀を制し、奥からやって来る人影に最新の注意を払う。
「おやおや、困りますねぇ……建物をこれ以上壊されるのは、経費の問題上看過できませんな」
「……………………」
奥から現れたのは、白衣を来た中年の男性と、まだ年端もいかない感じの無言の一人の女の子だった。
「やれやれ。目的は十中八九、アルテミスの奪還と言った所のようですね。けれどおかしいですねェ。あの兵器は元々私達の物でしょう?兵器を所有者たる私達がどう扱おうと、貴方達には構いはしない筈だと思われますが?」
「……訂正しろ。明美は兵器じゃない」
俺は白衣を着た男を睨みつけながら、今の言葉を訂正させる。
「何を馬鹿な事を。アレが兵器で無ければ、一体何だというのです」
俺は確かな答えと断言をもって、男に答える。
「人間だ。それ以外何がある」
「………………!」
少しばかり、無言の少女が驚いた様な挙動をとったような気がした。
「貴方は馬鹿ですか?貴方でしょう、アルテミスの適合者と言うのは。であれば知っている筈です。アレの兵器としての危険性を」
―――『兵器としての危険性』と言う言葉に俺は一瞬仰け反る。
白衣の男性の弁舌は尚も続く。
「貴方は本当に、人を平気で殺せる力を持った兵器が、人と一緒に暮らせるとお思いなのですか?……冗談でしょう?それは人喰い虎と同じ屋根の下で、暮らすようなものですよ」
明美と一緒にいる危険性をわかりやすく忠告する男性。
隣にいる女の子は、ただ顔を伏せたまま俯いている。
「断言しましょう。貴方達は、アレがどれだけ恐ろしい兵器なのかをまるで理解していない。その危険性から目をそらし続けている。アレの生きて行ける居場所、受け入れられる居場所は、貴方達の様な日向に当たる場所に生きている所には、絶対に存在しない」
それは違う、絶対に違うと俺は否定する。
少なくとも学校にいる時の明美は、確かに楽しそうに笑っていた。
男性の話しは尚も続く。それこそ悪い事を悪いと教え込む親のように丁寧に。
「アレはいるだけで、必ず貴方達に不幸を呼び寄せるでしょう。人間が人喰い虎を幸せに出来るとしたらそれは、食事の時だけなのです。だからこそ断言するのです。人間では
キッパリと超然とした態度で話し終えた男性の顔は、どこか満足気であり、誇らしげでもあった。
「それ……でも……」
「んん…なんでしょうかね…?」
俺は白衣の男性に、心のたけをぶちまけるように絶叫した。
「それでもッ!例え不幸にしか、ならないかもしれなくても!俺はアイツと一緒に居たいんだ!……我儘だろうがなんだろうが、アイツが拒否しても俺は一緒にいる。絶対にいてやる。我が儘と言われようが何だろうが、俺がアイツと一緒に居たいんだよ!そのために連れ戻しに来たんだ。文句あっかこの野郎!!」
言いたいことの堪えていた事の感情全てを俺は男に叫び散らした。
正直、この男には最初からムカついていたのだ。
明美のことを『アレ』とか『兵器』とか言ったこともそうだし、『危険性』という言葉で上から目線で話して来るあたりもそうだ。
何から何まで気に入らない。
「やれやれ、交渉決裂ですかね。でしたら仕方ありません。死んでもらいましょう」
突如、白衣の研究員が俺に指を向けたかと思うと、その指先から鋭く尖った氷の針が無数に俺に飛びかかってきた。
「ッ!!」
俺は反射的に身体をバックステップで琥珀の背後にスイッチする。
「はっ!!」
そして琥珀の出した炎によって、俺の前で溶ける無数の氷の針。
「みちる、行け。魔法の使えないお前はここには、いるだけ邪魔だ。ココの足止めは私がする。だから、さっさと行け」
「ありがとう、無茶するなよ!」
「通すとお思いですか?」
男性は顔を歪めながら、魔法を唱える動作をする。
「言いや。通して貰おう」
そして、聞いたことの無い単語とよく聞いたことのあるCランクの魔法を琥珀は唱え出す。
「『呪印解放』
「くっ!」
男が俺を止めるよりも速く、琥珀が魔法を唱えきり、俺の前には炎の壁で遮られた一本の道が出来上がった。
「なるほど。これは確かに通さざるをえないようだ」
「行けッ!みちる!」
そして俺は奥の明美がいるであろう場所まで、琥珀を背にして走り出す。
「仕方ありません。貴方達を排除した後、彼を殺しに向かうとしましょう。……オーディン行きますよ」
「…………はい」
「こい!今の私は最高にむしゃくしゃしてるんだッッッ!!」
そして、俺の背後からは魔法と魔法の戦闘音が鳴り響くのだった。
※ ※ ※
そして俺は、遂に最後の奥の部屋に辿りついた。
「明美!!無事か!!」
「……み、ちる……?」
視界の先には、拘束された明美が霰もない姿で拘束されていた。
「……やっと来たか、みちる」
そして、明美の前に佇み、確かな威圧感をもって、堅土は俺の前に立ち塞がる。
「堅土……てめぇ、覚悟は出来てんだろうな?」
怒りを噛み締め、睨みつけ、俺は拳を握る。
「みちる。お前こそ出来ているんだろうな?……死ぬ覚悟が」
そんな俺に対して堅土は挑発とも取れる、低く落ち着いた声で話す。
「死ぬ覚悟?んなモンしてくるわけねぇだろうが。俺がしてきた覚悟は必ず明美を連れ戻して、お前を一発ぶん殴るって覚悟だよ」
売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだが、俺の答えを聞いた後、堅土は怒りを孕んだ形相で、俺の言葉を吐き捨てた。
「相も変わらず、昔から口だけは達者だな。大した力も無いくせに。……反吐が出る」
そして、突如、堅土は俺の前から急に姿を消した。
否、目にも止まらぬ速さで俺のすぐ前まで、移動したのだ。
「覇ッッッ!!」
「ごふっ……!!」
一瞬のうちに瞬間移動にも似た速さで俺のボディーに食いこむ拳。
「どうした。俺を一発ぶん殴るんじゃ無かったのか?」
挑発を混ぜつつもその目は笑ってはいない。明らかな、殺意を孕んだ瞳だった。
「行かないならこっちから行くぞ、ふんッ!!」
二発目の重い拳を俺は、間一髪避ける。
だが、そこからの三発目の拳を喰らい、俺は為す術もなく、防戦一方になる。
「オラッ!さっきの威勢はどうした!」
前から背後へ、そしてまた前へ。そしてまた背後からのジャブ。威力を殺さないように次々と繰り出され立ち位置が変わる、堅土の本気の戦闘術。
「くっ……そ……」
啖呵は切ったものの魔法が使えない俺には、一切の手立てが無い。それでも俺が話し合いではなく啖呵を切ったのは、単純に許せなかったからだ。
遂には俺は普通の人の身でありながら、堅土の猛攻に耐えることができた。
「ちっ、耐えることに関してだけは褒めてやるよ。仕方ねぇ一気にケリをつけるとするか」
そして、堅土の周りに薄く光る燐光が舞う。
「魔法陣展開。『
堅土の足元に現れた魔法陣はそのまま堅土の身体を今以上に頑健に、そして、筋力を大幅に上昇させた。
「更に展開。『
そして、再度現れた別の魔法陣から、突如、下の地面から隆起した先端の尖った石柱を堅土は手にする。
その槍の先端は鋭く尖っており、投擲するならば単純な貫通力だけで人を瀕死に出来るだろう。
「くそ……お前、そんなBランクの魔法をどうして使えんだよ」
恨み節の如く言い放つが、先ほど貰った拳が想像以上に重く、目の前が目眩でぐらつきだす。
「行くぞ、みちる」
そして、堅土は俺に向かって、土の槍を投げつける。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
そして、槍は俺の身体を貫き、そのまま明美の拘束されている機械まで俺は吹き飛ばされる。
巻き上がる砂煙の中、堅土は感触を確かめるように冷酷に言う。
「直撃したな。手応えもあった。……流石にこれを防げないみちるは、死んじまっただろうな」
そして、堅土は哀しみを孕んだ瞳で、一人呟く。
「じゃあな、
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