第6話
「さて、お前らの相手は私だ」
そう言って、紫は数多の黒服の警備員の前に立ち塞がる。
(とはいえ、流石にこの人数はちょっと厳しいかな……)
大見得を切ったものの、人数的には明らかにこちらが圧倒的不利の状況だった。
「仕方ない、出し惜しみは無しで行こう」
そう言って紫は魔法陣を唱える。
「魔法陣
そして紫は自身の身体能力を強化する魔法と、足に風を纏い機動力を上昇させる為の魔法を唱えた。
二重展開―――デュアルキャストと呼ばれるこの技法は、一度に同じ魔法を二回分一気に唱えることで、魔法の効力を加算的に付与するものではなく、乗算的に付与する技法である。
わかりやすく説明するなら今の紫は通常の
『身体強化+身体強化』ではなく、
『身体強化×身体強化』を自身に付与して、威力を爆発的に上昇させているのだ。
そして、爆発的に高まった機動力と筋力を用いて、紫は黒服の警備員に肉弾戦を持ち込む。
「せいっ!!」
「ふんっ!!」
しかし渾身の一撃であるストレートの殴打を黒服の警備員は真正面から受けても吹き飛ぶどころか、何事も無かったかのように、その場で耐えて見せた。
「嘘でしょ!?何もしないで腕力だけで止めた!?あんた、本当に人間なの!?」
「目論見が外れて残念だったな。我らは全員、常人の身体能力はとうの昔に捨て去っているのだよ」
そのまま紫は男性から離れ、一歩距離を置く。
「
そして、紫先生は黒服の男性に、拳銃のような形で人差し指を向け。
「ばん」
「がはぁ……ッ!!」
男性の胸部に大きな空洞を空け、辺り一面に血の海の作り出した。
突如、近くにいた別の黒服が驚愕の声を上げる。
「即死だと!?貴様……まさか、軍の人間か!?」
「いいえ違うわ。ただの高校教師よ」
呼吸をするように、紫はさらっと嘘を吐く。
「嘘つけ!即死級のSランクの魔法を使えるのに何を言ってやがる!!」
しかし、その回答が気に食わなかったのか、黒服の男性は尚も逆上し糾弾する。
対して、紫もこれまた煽るように対応する。
「あら?これがSランクの魔法だっていう証拠がどこにあるのかしら?」
「黙れくそっ!!魔法には魔法で対抗するしかない。
黒服の男性は激昂しながらも冷静に判断を下し、体に風の鎧を身に纏う。
だがしかし。
「残念でした。それは不正解よ」
紫は妖艶に笑って、太ももから隠していた拳銃を取り出し。
「装填、火炎弾。―――さようなら」
弾を込め男に向けて放つ。
「ぐぁあ!熱い!熱いィィィ!!」
すると風の鎧に着弾すると当時に燃え盛り、火だるまになって男性は転げ回る。
そして、遂には悲鳴が途切れた。
「それじゃご愁傷さま」
紫は他にもいる黒服の男性達にそれぞれ拳銃と拳銃を模した指を向けて、ただ一言。
「ばん」
※ ※ ※
みちるが奥の部屋に向けて走り去ったあと。
琥珀と藤堂は対峙していた。
「それではいきますよオーディン」
「……かしこまりました」
そう言って藤堂とオーディンと呼ばれた少女は手を繋ぎ、一言。
「「『
するとオーディンはそのまま眩き光となって、藤堂と同化した。
そして藤堂の手に現れたのは、背丈ほど長く先端に赤い宝石の埋め込まれた杖と、時点ほどの大きさのある一冊の本だった。
「ではいつも通り、
確かな殺気を放ち、藤堂は琥珀に宣言する。
「そう簡単にやられたりするもんか。
決意と覚悟をもって琥珀はCランクの炎の魔法を唱える。
「効きませんねぇ…」
しかし炎が藤堂に着弾しても、藤堂には傷一つつけられなかった。
「そんな、傷一つ無いだって」
琥珀は戦慄する。確かにCランクの炎の魔法は元々人を傷つけるようには、火力は設定されていない。火だるまになるような火力の炎はそれこそBかAになるからだ。しかし、いくらCとはいえ、直撃すれば無傷ではすまない筈なのだ。
しかし冷静に分析している琥珀とは対照的に、藤堂は高らかな声で琥珀に話しかける。
「貴方に、本当の『圧倒的な魔法』と言うものを見せてあげましょう……『弾よ《バレット》』!」
すると一瞬で藤堂の頭上に、数多の白くて丸い魔法弾の弾幕が出来上がる。
「これは……火や水や風の魔法を弾にしたものではない、純粋な魔力だけを弾にした弾幕…!?」
再度、驚愕の表情に包まれる琥珀。一つ一つの威力はBランク相当だろう。しかし、問題はそこではない。
そして冷静に分析した琥珀に対し、藤堂は感心したように話を続ける。
「よく観察しておられますねェ、その通りです。知っているなら対処法もご存知の筈ですね?」
「……より高威力の魔法で正面から打ち消すか、避けるしかない」
そう、問題はここなのだ。純粋な魔力の
だが、この数では間違いなく逃げきれないだろう。必ず一つは着弾して私は死ぬ。対抗する守りの魔法も持ち合わせてはいないから意味がない。
「その通り。勤勉なのは良きことです。では、死んでください」
しかし、闘いとは非情なもので、対処など待ってはくれない。
藤堂の合図と共に、数多の魔法弾は降り注がれることになった。
琥珀は死の瞬間、一つの決意をする。
それは、自身の身体を壊してでもこの場を生き延びる覚悟。
「『呪印発動』『
そして、唱えた琥珀の背中に浮き出る謎の魔法陣と、機動力を上昇させる為の魔法により、足に纏われる風。
「愚かな。避けるほうを選択するとは」
藤堂の呟きとは真逆に高い機動力を用いて、圧倒的な魔法弾の弾幕を避けていく琥珀。
それでも尽きない魔法弾。
「ほらほら、まだまだ弾は残っていますよ!死にたくなければ踊りなさい!」
「くっ……!」
しかし機動力を高めても、やはり最終的には追い詰められていき、避けきれない琥珀の目の前に最後の魔法弾が迫る。
だが、ここが琥珀にとってのチャンスだった。
「ここだっ!……『呪印発動』『水弾よ《ウォーターバレット》』!!」
「なにっ!?」
火力を高めて巨大な弾に膨張した水の魔法に相殺され、打ち消される魔法弾。
藤堂の目論見は外れ、琥珀は何とか生き延びたのだ。
「これは、少々予想外ですね。まさか相殺されるとは」
「はぁ……はぁ……」
驚愕と言うよりは寧ろ感心した藤堂は琥珀に話しかける。
対する琥珀は息も絶え絶えの状態だった。
「ですが、その爆発的に魔法の威力を高める背中の魔法陣。相当、体に負担をかけるもののようだ」
藤堂に冷静に分析される琥珀。いつでも冷静とは、こと戦場に置いては厄介極まりないものであった。
「くっ……!」
このままではまずいと判断し、琥珀は背を向けて藤堂から逃げる。
「おや、逃亡ですか?私に背を向け逃げ出すとは。逃がしませんよ」
追ってくる藤堂。
「はぁ……はぁ……」
それに対し、逃げて後退する琥珀。
しかし、これは藤堂をある場所に誘い出す為の、琥珀の罠であった。
「ここだ、くらえ!」
ある場所にまで藤堂が来た瞬間、反転し向き合う琥珀。
「『呪印発動』
威力を高めたCランクの雷の魔法を使った琥珀の手の先にあるものは藤堂……ではなく。
先ほどの巨大な水弾の後にできた水溜りであった。
「ぐぁぁぁぁァァァァァ!!!」
感電し、悲鳴を上げ、電気によって体の自由を奪われた藤堂は、そのまま水溜りに倒れ込む。
「ふぅー」
安心し、溜息をつく琥珀。
「く、くそ……身体が……」
感電して自由を奪われたにも関わらず、未だに諦めずに抵抗する藤堂。
「
そんな藤堂に琥珀は、情け容赦なく土の魔法で作り出した岩で藤堂の両腕を潰す。
「ぐあァァァァァ!!」
「………あぅ…ぅぅ………」
あまりの激痛に『
「ふ、
藤堂は遂に戦意を喪失し、抵抗しなくなった。
「もう、いい加減、黙っててくれない?……私も結構しんどいんだからさ」
そんな藤堂に対して、琥珀は厳しめの感想を言い放つ。
「それは無理ですな…私は科学者ですので。弁舌は私の特技ですよ」
しかし、それを科学者の性だと断じて藤堂は、両手を潰された激痛に耐えきれず、遂には意識を失い気絶するのだった。
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