第3話

「それで、学校に俺は行くわけだが…」


朝、いつも登校している時間に仕度して、いつもの通りに登校しようとしていたのだが。


「何で、アルテミスまで制服を来てるんだ?」


なぜか昨日の今日で、目の前には制服に身を包んだアルテミスの可憐な姿があった。


「ふふ~内緒だよ~♪」


絶好調で上機嫌にターンや色々なポーズをとって、着心地を確かめるアルテミス。


「うん。ぴったり!胸もきつくないし、何より可愛いし!」


朝から目の前に天使がいるのは大変素晴らしいとは思うのだが、どうしても状況が飲み込めない。


このままだと、アルテミスは制服を来たコスプレイヤーになってしまうかも知れないからだ。


すると二階から父さんが降りてきた。


「父さん、これはいったいどう言うこと?」


すると父さんは、さも当然と言わんばかりに俺に言ってきた。


「ああ、アルテミスもこれから通わせる事になったから」


「え!?」


俺の驚愕に顔が染まる。


確かにそれで辻褄は合うけれど、手が速すぎないか!?


「もう!なんでばらすんですか~!」


「どうせバレるんだから今バラしても問題ないと思うぞ」


可愛くアルテミスが父さんに抗議している。


父さんを疑うわけではないが、どうやら本当にアルテミスは学校に行くらしい。


「それに、誰が学校までアルテミス……アミを送ると思ってるんだ?俺はこれからまた仕事だから無理だぞ?」


当然の疑問をアルテミスに突きつける父さん。


「言われてみれば、この中だとみちるしかいないのか。学校までエスコートよろしくね、みちる!」


今気がついたとばかりに、アルテミスは周りを見て、俺の手をアルテミスは握ってくる。


手を握られた事にドギマギしつつも、俺は別のことに思考を支配されていた。


「そういやアミ……って、アルテミスのことか……?」


すると、アルテミスはその豊満な胸に手を当てて、自信満々に宣言した。


「そう!私の名前はこれから『天月あまつき明美あみ』ってことだから、よろしくね。みちる!」


すると隣で父さんが、とんでもない発言を明美あみの後にかましてきた。


「やっぱり学校に行くに限らず、生きていくなら名前とかがあった方が色々と便利だからな。役所とか戸籍に関しては、軍の職権をまぁ、ちょいと利用させて貰った」


父さん、それは職権乱用って言うんだよ……?


なまじ、父さんはそれなりに軍の中では高い位置に位置する階級のため、部下の人達が父さんの無理でかなり苦労したに違いない。


「何から何までありがとうございます。本当に頭が上がりません」


明美あみが父さんに感謝の気持ちを心から表す。


それに対して父さんは快活に笑い、これからのことを忠告と共に教えてくれた。


「なに、これくらいは造作も無いよ。ただ、恐らくだが、市中で敵に襲われるかもしれない。学校には独り、前から潜り込ませていたのがいるから、その人に協力してもらえるだろう」


「そんな人いたの?誰?」


言われてもそんな人はひとりとして思い出せない。


「まぁ、会えばわかる」


何故か頭を抱えながら父さんは言う。


―――ますます誰か分からなくなった。


「それよりもほら!速く!学校とやらに行ってみましょう!」


ハイテンションで明美あみは俺の手を取り引っ張る。


「元気だなぁ。……実際、そんな楽しいところじゃ無いぞ?」


「そうなの?」


げんなりした表情で強い意思を持って答える。


「行ってみればわかる」


「じゃあ速く行こう!ほら、ほら!みちる、速く!」


だが、どうやら俺の気持ちを察してはくれないようだ。


さながら明美あみは好奇心旺盛な子供のようにはしゃいでいる。


「あらあら、アミちゃん元気ねえ」


すると奥のキッチンから母さんがやってきた。


「あ、母さんおはよう」


翠璃みどりさん、どうですかこの制服!」


母さんの前で明美はくるりとターンをして、手を広げて、手を広げている。


「凄く似合ってて可愛いわよ、明美あみちゃん。あとこれ二人とも、お弁当作っといたわよ」


そういったあと母さんは、二つの弁当を差し出し、俺達に手渡してきた。


「ありがとうございます、翠璃さん」


「ありがとう母さん。それじゃあ行ってきます」


そして、俺達は学校に行くのだった。




そして俺と明美あみが、学校の昇降口に着いたあと明美が突然、不安そうな顔で裾を引っ張ってきた。


「このあと私は職員室ってところに行かなきゃ行けないんだけど……」


「場所がわからないんだろ?案内してやるよ」


俺はみなまで言わせず、快諾する。


「ありがとう、みちる」


伏せた顔からは表情は見えないが、裾を掴んだ震えた手が、ここが明美あみにとって知らない場所であり、それ自体が恐怖であり、虚勢を張っていただけなのだと理解出来た。


「まぁ、これからは一緒にいる訳だしな。これくらいはするよ」


そして、俺達は少し歩き職員室の前にきた。


「それで?職員室に来たは良いけど入って良いのか?」


この時点では部外者なのかどうかも判断出来ないので、一応俺は明美に聞いてみる。


「話しは通してあるって誠真せいじさんが言ってたから、大丈夫だと思う」


すると、ちゃんと話しは通っているとの事だった。


「父さんが言ってたなら大丈夫かな」


俺はそう言って職員室の扉をノックをした後、扉を開き職員室に入室する。


「失礼します」

「し、失礼しまーす」


俺は奥の先生にも聞こえるように言い、明美は俺の背面から一歩引いて声を出す。


「月影みちるです。転校生を案内して来ました」


すると奥から穏やかな雰囲気と表情の初老の先生が現れ、俺達に問いかける。


失礼な話だが、俺はこの先生の名前がわからなかった。


「ああ、ありがとうみちる君。って事は、そっちの女の子が天月あまつき 明美あみさんだね」


しかし、先生の方はどうやら俺の事も明美の事も知っているようだった。


「初めまして。天月あまつき 明美あみです。よろしくお願いします」


俺の背面から明美が前に出て、先生に挨拶する。


「はい、よろしくね。明美あみさんには、ちょっと書いてもらう書類とかが少しだけあるから、みちる君はクラスに戻ってなさい」


「はい、わかりました」


そして、明美は奥の事務室に連れていかれようとしていた。


その手前で。


「じゃあ、また後でね」

「ああ、また後でな」


俺と明美は何気ない約束を一つしたのだった。



明美を職員室に送ったあと、教室に入るとやけにハイテンションの狐耳委員長、もとい天風あまかぜ 琥珀こはくが俺に詰め寄ってきた。


「みちる!聞いたか!?なんか転校生が来るらしいぞ」


「知ってるけど琥珀。お前なんかやけにテンション高いな。どうしたんだよ?」


ただの転校生が来るだけでここまで騒がしくなるものだろうか?


すると琥珀は凄い剣幕で理由を話しだした。


「知らないのか?凄い可愛い女の子が来るって言う話しで今クラス中が大騒ぎなんだぞ!?」


「へ、へー。そうなんだ」


若干引き気味になりつつ、俺は明美のことを思い出してみる。


白色の髪に見た目のからはわからない幼さと何処かで芯を持った気の強さ。

可愛いところとかを羅列し出したら止まらないが、まぁ……。


「確かに美人ではあるな」


断言するように、何気なく口から漏れた言葉ひとこと


「みちるは何処かで、会ったことあるのか?」


その言葉を琥珀は見逃さずに、上目遣いで言い寄ってきた。


こっちはこっちで、明美とは違った可愛さがあるよな……。


「会ったこともなにも、今しがた職員室に連れていったよ。……あれ?そういや堅土は?」


クラス中を見渡してみるが、あのガタイの良く穏やかな雰囲気と存在感を持った俺の親友の姿が見えない。


「じゃあみちるだけ先に見たのか。ずるいなぁ。あ、堅土は珍しく寝坊したって、さっき連絡があつた。今、全速力で向かってるって」


琥珀が腰のあたりにあるポケットから、板状の携帯電話を取り出して俺に堅土との連絡履歴を見せてくる。


「お、じゃあ一限には間に合うな」


堅土の寝坊は正直珍しくない。けれどいつも身体強化の魔法と風の魔法を使って、全速力で向かって来ているのだろう。その甲斐あってか、堅土は一度も遅刻したことはない。


「よーし、お前ら、座れ~」


すると、俺の後ろの扉からよく知っている女性の声が聞こえてきた。


「「「げぇ!?紫先生おにきょうかん!?どうしてここに!?」」」


クラス中の生徒が騒然となっている。


正直、俺もそうしたい気分だが、何されるかわかったもんじゃないから、何も言わない。


「よ〜し、お前らいい度胸だ、朝からシメられたいらしいな?……だが、今日は見逃してやる。初日だしな」


こめかみに青筋を浮かべながらも、しかし生徒全員の狼藉を見逃した。


そして、とんでもない発言を一つ。


「突然ではあるが、今日から私がこのクラスの担任になった。前任の担当教師が突然辞任した為だ」


「「「はぁぁあぁぁあぁあああ!!??」」」


「そして、今日はもう一つ。皆も聞いているとは思うが転校生がいる。入ってこい」


そして、扉の奥から明美が呼ばれて入って来る。


「「「いやっほーーぅーー!!!」」」


琥珀も含めクラス中の視線を釘付けにし、かつあまりの可愛さにクラス中の生徒が、感嘆の声を上げている。


「初めまして。天月あまつき 明美あみと言います。これからよろしくお願いします」


―――――――――。


―――そして、一時の訪れる静寂。


「ん?自己紹介はそれだけか?他には何か無いのか?」


紫先生が明美に対して質問する。


「何を言えば良いのでしょうか?」


しかし、明美は他に何を言えば良いのかわからないようだった。


「うーん。好きなものとか夢とかでいいんじゃないか?」


「分かりました」


そして、紫先生の言葉を理解した明美は俺を後ろから抱きしめて、皆によく聞こえる声でクラスに核弾頭を投下した。


「好きなものはここにいる月影みちるで、夢はみちるのお嫁さんになること。以上です!」


溌剌とした満面の笑みで言い放つ。


そして、教室の時が止まった。


―――否。時は止まってなどいない。その場の全員が凍りつき、絶句したのだ。


そして、その静寂を破ったのは隣りに座っている琥珀だった。


「おぉぉぉいぃぃぃみちる!???いったいどう言うことだァァァァ!!!!」


「ちょ、やめ、首元掴まないで……痛い痛い!」


「私というものがありながら~~~っっ!!!」


首に歯を立てて噛み付いて来る琥珀。


ちょ、まじで痛い。琥珀はもしかして、狐じゃなくて吸血鬼やもしれん。


―――狐耳のロリ吸血鬼。新しいな。

現実逃避も虚しく、更に怒声が響いてくる。


「そうだ、おい!いったいどういうことだ!!答えろみちる!!答えなきゃコロス!答えてもコロス!!」


更に追い討ちとばかりに襲いかかって来る男子達。


「はーやっとついた。うーす、おはようございます……ってなんだこれ、どう言う状況だ?」


遅刻ギリギリで登校してきた堅土。


明らかに目の前の光景に困惑していた。


「堅土~助けてくれ~」

「いや、流石に無理」


助けを求めるも、ばっさりと切り捨てられた。あれ?俺達、親友だよね?


「あれ?あなた、どこかで最近会ったこと無い?」


そんな堅土を見て明美は変な質問をする。


「初対面だよ」


恐ろしい程の冷徹な冷たい声で言い放つ堅土。


「ああ、ごめんなさい。失礼しました」


それっきり、二人の会話が途切れてしまった。


気まずくなったのか、堅土は紫先生に現状の説明を求めた。


「紫先生、おはようございます。これはいったいどう言った状況なんでしょうか?そもそもどうして先生がここに?」


すると、紫先生は堅土の質問に答えてくれた。


「ああ、堅土けんと君おはよう。突然だが、今日から私がこのクラスの担任になった」


さしたる驚きも堅土には無いようだった。


「で、だ。堅土けんと君、明美あみ君。少し耳を塞いでいるといい」


「「…?はい、わかりました」」


疑問を持ちつつ、二人は耳を塞ぐ。


すると、紫先生は黒板に対して思いっきり手を叩いて。


その音が一瞬にして増幅され、窓が軋む程の音となり、クラス全体に響き渡り、反響する。


「よし、静かになったな。二人とも、耳を開いていいぞ」


紫先生は2人にジェスチャーで耳を外していいと指示する。


「さて、これ以上、騒ぐなら私から物理的な教育的指導が入ることになるが、どうする?」


鼓膜が破れる程の音では無いにしろ、今の魔法のせいで皆、完全に怯えてしまっていた。


「よし、では明美あみ君はみちるの隣りにある、あの空いている席に座ってくれ」


紫先生はそう言って空白の席を指さす。


「ってそこ、俺の席なんですけど!?」


隣から堅土が紫先生に講義する。


しかし紫先生は意にも介さず話を進める。


「なら、今日からあそこは明美あみ君の席になる。堅土けんとは独り余るから、そうだな……」


「みちるのいる列だけ、無理矢理一つ机を増やして詰めればいいか。それで堅土君の席は琥珀君の隣りに作るか」


「理不尽過ぎるっっっ!!」


そして、まさかの一番後ろの横の列だけ席が増えるという異常事態になった。


「さて、二人とも座るといい」


そう言って紫先生は一つだけ今しがた無理矢理開けたスペースに堅土を座らせようとする。


「俺は床に座れと?」


「大丈夫だ」


自身を持って紫先生は教卓にある椅子に手をかけて。


「椅子だけならここにある」


キリッとした顔で言い放つ。


「「酷すぎるっ!!」」


俺と堅土の悲痛な叫びが重なった。


「なにその代わりと言ってはなんだが、遅刻は免除してやる。皆勤を逃したくはないだろう?」


どうやら遅刻を免除する代わりにこれを受け入れろということらしい。


実際は遅刻はギリギリ大丈夫だったのだが、それはさっき見捨てられた仕返しとして、堅土には黙っておこう。


「もとより、拒否権なんか無いのは知ってましたし、そうさせて頂きますよ」


ため息をつき、諦めた顔で堅土は椅子を持って行って空いたスペースに座った。


机の無い、椅子だけに座らされている堅土はとても悲壮感が漂っていた。


「みちる、これからよろしくね!」


俺の隣では明美が溌剌とした笑顔で腕を組んでいる。……その反対側には琥珀が凄い睨んだ顔で俺を見て、腕をきっちりホールドしているが。


「は、は、ははは」


俺はそんな混沌とした状況に乾いた笑いしか出てこなかった。


「よし、全員席についたな。連絡事項は特にないが、最近不審者の報告が多々ある。学内外問わず注意するように。後はまぁみんな明美あみ君と仲良くしてやることくらいかな。一限には遅れるなよ」


「以上、ホームルームを終了する」




そして、移動教室も無く、午前の一限が始まる。


最後列になるが左から明美、俺、琥珀、堅土と言った順に並んでいる。ちなみに堅土は窓際である。


そして、気がついたことが1つ。


なんてこった。座学は担任がすることになっているのに、実技も紫先生でこれからずっと紫先生に顔をあわせるのか。


……俺、無事に進級出来るのかな。


そして、担任である紫先生・・・の授業が始まる。


「では、今日は魔法時代の最初期の日本の歴史と、どうやって、ただの人間でしか無い私たちが、魔法を使えるようになったか。の講義を始める」


そして、紡がれる。この魔法の原点を。


「400年前、私達の住む星『地球』の日本国、千葉の上空に突如、並行世界と繋がる黒い穴が出現した」


「黒い穴からは、向こうの世界。昔の人からすれば空想上の産物でしかない魔法を使う人々がやって来た。最初に現れた二人の少年少女が当時の首相に魔法を見せたのが、魔法の始まりとされている」


「そして当時の科学技術を結集して魔法を調べた結果、魔法は脳の、普段使用している容量を増やせば、魔法を使えるという事が発覚した」


「昔の人達は、普段、脳は良くても10%しか使われていなかったと大多数の人は思っていたらしい。これは大きな間違いで実際は100%ちゃんと使われていたのだ。ではどうやって400年前の人達は、脳の記憶容量を増やしたかと言うと、元あった記憶を圧縮し、空いた記憶の部分を魔法を使う為だけの機構に置き換えたんだ」


「400年前の人達は今ほど魔法を使える人が、1人あたり魔法を使える人が、いなかった。容量が少なければ使える魔法の数も1人あたり少なくなってしまうのは、当たり前と言えば当たり前だがな」


「そして、その後に産まれてきた子供たちにはそのような事が無いように、生まれた瞬間、つまり記憶が0の時に魔法を見せることで、100%の記憶容量で魔法を使わせられる事ができるように脳を変質させた。生まれたばかりのその子達の脳は、記憶と魔法の両方を保存できる脳に変質したと言うわけだ」


ここまでで話を一区切りして、紫先生は教科書を閉じろと言ってきた。


そして、自分の脳と体を指を指して説明してきた。


「じゃあ次だ。脳はこれで魔法を認識することで魔法を受け入れられるようになった。では人間の体はどうなる?この質問はそうだな、琥珀に答えて貰うとしよう」


説明を質問に置き換えて、紫先生は琥珀に質問を投げかける。


「え、私ですか?分かりました」


いきなり投げかけられた琥珀は、戸惑いながらも紫先生の質問に回答する。


「生まれたばかりの赤ん坊に魔法を見せることで、脳は魔法を認識することができるようになりましたが、認識できるようになったばかりの赤ん坊の体では魔法に耐えきれません。よって子供が7歳、小学2年生になる頃に簡単なC級の初歩の魔法を使わせることで体のリミッターを無理矢理外させることで体自体に魔法に対する耐性をつけさせる。するとその後は魔法を使っても体に害が無いようになる」


「……これで宜しかったでしょうか?」


一気に説明したことにより、俺は理解出来たが、隣にいる明美は理解出来なかったようである。


わかりやすく言えば、インフルエンザの予防接種の様なものだと思ってくれればいい。


「うむ。百点満点。模範解答をありがとう」


紫先生は大満足のようで、琥珀に対して拍手している。


「補足だが、リミッターを外した時に起きる病気が、みちるを除いた皆が誰しもが必ず引き起こす、『突発性とっぱつせい魔力魔 まりょく放出病ほうしゅつびょう』だ」


そう。俺だけはこの病気にかかっていない。


何故なら明美に出会ったのが十年前の六歳の時だからである。その時に魔法を使えなくなったので、七歳の時に通るべきその病気は俺は体験していない。


そして、紫先生の説明はまだ続いた。


「だが、体の方のリミッターというのはそれだけではなく幾重いくえにも存在する。体のチカラを100%使えてしまったら体は自壊してしまうからな。魔法にCからS、EXのランク付けがされているのは、単に危険度を表すためだけでは無く、自身の体を自壊させないためにも設定されたものなんだ」


皆は一様に黙り込み、息を呑んでいた。こんな話は本来であれば、余りされない忌避された内容であるからだ。


しかし、必ず魔法を教えてもらう上で聞かされる内容でもある。


目をそらしていた事実とも言うし、意図的に隠されていた事実とも言う。


重く辛い空気が部屋に蔓延する。


先生はそんな空気を察したのか話を戻すが、これまた重い話になるのを俺は知っていた。


「歴史の方に話を戻そう。みちるくん、人間が魔法を使えるようになってから起きた一番最初の最悪の出来事はなんだ?」


「一番最初、ですか……?300年前の第1次魔法戦争でしょうか?」


色々あるが、一番最初と言われればそれが最たる出来事だろう。


「その通り。その戦争で一つだけ現在に続くまで、一つだけ全世界で禁止されている事がある。それはなんだ?」


「平行世界への軍事的進行と略奪行為ですね」


こちらも一つだけと言われればこれしか有り得ない。


「正解だ。やはり座学成績1位は素晴らしいな。多岐に渡ってよく勉強している」


「ありがとうございます」


そう言って、俺は席に座る。


隣では、琥珀と明美が目を丸くしている。


「さて、みちる君が言ってくれたように第1次魔法戦争は簡単に言ってしまえば地球で起きた戦争に、平行世界の国家が戦争に介入した事で起きた戦争でもあり、結局は関わった国が全て滅ぶことによって幕を閉じた史上最悪の戦争でもある」


「では次だ。そうだな次は堅土君に質問しよう。その戦争以来、全世界でひいては平行世界ですらも禁止された一つの法律があるな。それはなんだ?」


今度は堅土に質問が投げかけられた。


少し悩んで堅土は口を開き出した。


「んー、体を大切にしましょうねーとかって感じの法律でしたよね?確か魔法なんとか法ってやつですよね?」


ところどころ正解している為に苦い顔をしながらも話を続ける紫先生。


「誤答ではないが正解でもないな。50点だ。魔法関連まほうかんれん禁止法きんしほうと言うもので、薬物を使ってのリミッターを強制的に解除、増幅、製造、売買、その他魔法に関する、人体実験を禁止すると言った内容だ」


一転、沈鬱な表情で悲壮感が先生を包み込んだ。そして、見たことのない強い意志を宿した瞳で俺達に訴えるように話しだす。


その瞳にクラスメイトは全員、目を背けられなかった。


そして、紫先生は話し出す。


「これが制定された理由はただ一つ。戦争で薬物を使い、赤ん坊のリミッターを無理矢理外し、文字通りの使い捨ての人間爆弾兵器として使ったことが原因だ。これは拭いきれない人類の業であり、負の遺産であり、決して2度と引き起こしてはならない過ちとして、刻まれることになった」


すると、鐘が鳴り響き、授業が終わったことを告げる。


「以上で午前の座学の授業を終了する」


そうして初めての紫先生と明美の授業は幕を閉じた。

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