第48話 魔法薬師アリス

 今さらなのだが、この村に来てから1つ大きな謎があった。アリスがどう生計を立てているのか全く分からないのだ。買い物には行くので、何らかの手段で稼ぎがあるはずなのだが、特に働いている様子でもない。本当に謎である。

 使い魔が心配する事ではないかもしれないが、我々は臆病であり刺激を求める厄介な生き物である。今回は刺激が勝った。

「あれ、先生の顔が何か怖いですよ?」

 アリスが不思議そうに聞いて来た。こと、ポーカーフェースには自信がある私が、よりにもよってアリスに見抜かれてしまうとは。弛んでいるな。

「ああ、気のせいだろう。私はいつもと変わらん。どうしたら、その空っぽの頭を唐竹割りできるか考えているだけだ」

 適当に返し、私は窓際の指定席で大きなアクビをした。

「先生、酷い……」

 ふくれっ面を作るアリスだが、残念ながらそれで可愛い年齢は、もうとっくに過ぎている。

「いいです。買い物でも行ってきます!!」

 おっ、いきなりチャンス到来。ルーンもエリナも用事で出かけている。私は気配を消し、アリスの動きに合わせて玄関のドアまで移動した。そのままなにも気づかないで、アリスがドアを開けた瞬間に外に出てそっと尾行を開始した。特に変わったところはない。時に店主と談笑など交えながら、晩ご飯用と思われる食材を買い込んでいる。異常はない。

 ふむ、今日はハズレか……。そう思った時だった。買い物カゴを持ったアリスがフラフラと村の外に向かい始めた。

「ん?」

 そちらには、確か今にも倒壊しそうな小屋があるだけだが……。いよいよ怪しくなってきた。

「よっと」

 小さな声と共に。アリスは小屋のドアを開けて中に入った。もちろん、私は付いていけないので、窓の下にあった箱に登り、中の様子をそっと伺う。どうやら、そこは何やら薬を作る場所のようだ。知っている薬草が何種類もある。アリスは棚から材料を取っては、乳鉢ですり潰して混合したり、何かを煎じたりしている。

 こんな場所があるとは驚きである。隠しておくことでもなかろうに……。

「しかし、これだけの売り上げでは、とても生活費をまかないきれないだろう。確かに、魔法薬は高価なものではあるが……」

 魔法薬が効果なのは、その材料が高いという事もある。メチャメチャ吹っかけていない限り儲けはさほどないはずだし、アリスの性格を考えると逆に赤字を出してでも売りそうである。そうなると……。

「夜か……」

 この先は好奇心では済まない問題になりそうだが、使い魔として主が何をしているのか見届ける必要がある。今まで調べなかったのは私の怠慢だ。

 こうして、私は夜を待つことにした。


 皆も寝た深夜、1人家から出て行くのはアリスだった。足音を立てないようにそっと移動しているが、猫の耳は誤魔化せない。私はそっと指定席から飛び降り、猫専用出入り口から外に出ると、そっとアリスの後を追った。向かう先は、やはりあの小屋のようだ。

「これで空振りなら、勘が鈍ったな……」

 こそっと呟きながら、私はアリスを追う。いつものどこかフラフラしている感じの歩き方は変わらない。村人も寝ているであろう時間なので、見失う心配はない。

「さて、いよいよか……」

 やはり、アリスが向かった先は、例のボロ小屋だった。しかし、小屋の中には入らず、隣接する納屋に入って行った。そして、なにか樽のようなものを満載した馬車を出してきた。車体に『火』のマークが掲示されているところを見ると、積んであるのは火薬か。分かりやすい。

 馬車の速度は極めて遅い。私がゆっくり歩いて間に合う程だ。そのまま街道に出て、しばらく進むと数人の集団が待ち構えていた。

 私は近くの草むらに隠れて様子を伺う事にした。

「ご苦労。約束の高性能爆薬4樽。確かに受領した」

 待っていた人間の1人が、アリスに金袋を渡す音が聞こえた。月明かりに照らされた相手の馬車には、王家の旗が立っていた。

「あの……いつまでこんな事を……。私は魔法薬の知識を、こんな事に使うために学んだわけではありません」

 ん? なにか話しの風向きが変わったぞ。

「あの猫がいる限りずっとだ。本来は王宮で引き取るべきだからな。ちゃんと給金も払っている。問題無かろう」

「……」

 アリスは黙ってしまった。隠れているつもりだったが……出番だな。

 私はこっそり呪文を唱え、国王を呼び出した。

「なんじゃ、こんな時間に……」

 隠密行動は中止である。私は国王の隣に立った。

「こ、国王様!?」

「先生!?」

 それぞれがそれぞれに声を上げる。

「なんじゃ、違法取引か。即刻死刑じゃな」

 国王はすらっと剣を抜いた。

「こ、これには訳が。アリス殿の作る火薬は……」

「問答無用!!」

 国王は素晴らしい速度で、アリス以外のその場にいた人間を、一瞬で滅多切りにしてしまった。

「フン、剣のサビにもならん。さて、これで用事は終わりか?」

 国王が聞いてきた。

「ああ、助かった。また頼むぞ」

 私は国王を元いた場所に帰した。

「さて、アリスよ。なぜ相談しなかった? そんなに頼りないか?」

 私はアリスに肩をすくめてみせた。

「とんでもないです。でも、この人たちは先生の身柄を武器に私に迫ってきました。断れなかったんです」

 ……うむ、さすがに目立ち過ぎたか。

「一言いえ。私だって、それなりの対応はする。ちと荒っぽくはなるはなると思うがな」

 アリスが突然抱きついてきた。

「今の先生に無理させる訳にはいきません。私が我慢すればいいだけです」

  ……ちっ、こういうのは嫌いだのだが。

「それはおまえのエゴだ。まずは話せ。でなければ、なにも解決しない」

  私はパイプに火を付けようとして……やめた。そこに大量の火薬がある。

「さて、帰ろうか。しかし、まさかこういう方法で稼いでいたとはな」

 これは予想外だった。不本意とはいえ、アリスは爆薬を売っていた。それは事実だ。

「好きでやっていたわけではありません。言い訳にしかなりませんが、私の唯一の特技が魔法薬精製で……」

 なるほど、アリスにも魔法使いっぽいところがあったのだな。

「お前の稼ぎで暮らしている。ゆえに、なにも言えた義理ではないが、出来ればなるべく温厚な稼ぎ方をして欲しい。無駄に危険に飛び込む事はないからな」

 私がアリスに言うのとほぼ同時に、小さなボロ馬車は小屋に到着した。

「でも、普通の稼ぎでは……」

 そこは抜かりない。私は再び国王を呼び出した。

「なんじゃい!!」

 どうやら寝る直前だったらしく、絵に描いたような寝間着姿で国王が現れた。

「いや、ちょっと商売の話しだ。アリスが作った火薬を買い取って欲しいのだ。結構いい仕事しているぞ(多分)」

 国王は大きくアクビをした。

「分かった。言い値で買い取ろう。そして、さらに何かありそうな顔だな?」

 ……さすがだな。

「ああ、アリスを講師に魔法薬教室を開きたいのだ。王宮魔法使いを相手にな。どうも、魔法薬は軽んじられているようだからな」

「えええええええええ!?」

 アリスが悲鳴を上げるが、気にする私ではない。

「ほぅ、面白いな。さっそく、明日学校建設の人員や物資を送る。王都にはもう建物を建てるスペースがないからな。他に用事がなければ、わしはもう寝るぞ」

「ああ、すまんな。よろしく頼む」

 私は国王を帰した。

「せ、先生、なんで勝手に!?」

 アリスは今にも死にそうな顔をしている。

「魔法薬には自信があるのだろう?」

 アリスに問うと、彼女はコクリとうなずいた。

「なら問題ない。真っ当な方法で稼げるぞ」

「いや、そうですが……相手は王宮魔法使いですよ!?」

 ええい、いちいち泣くな。なにか虐めているみたいではないか。

「王宮魔法使いだろうが、その辺のゴロツキ魔法使いだろうが、私にしてみたら同じようなものだ。そういうことで、頑張れ」

「ううう……」


 こうして、アリスの仕事も決まり、私たちはより安定した生活を手に入れたのだった。

 この時は、まだアリスの真価を知らなかった。

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