第33話 王都へ!!
薪がパチパチ音を立てる中、ルーンの静かな声が流れて行く。
「私とお姉様が知り合ったのは、王宮魔法使いになってからです。お姉様の方は二年先輩でした。あっ、王宮魔法使いって年齢は関係無いんです。自分より小さくても先輩は先輩ですし、後輩は後輩なんです」
まあ、それが道理だろうな。
「それでまぁ、ありがちですけれど、王宮魔法使いになって早々トラブルになりまして、辞めなきゃいけないかも……なんて思っている時に、お姉様に会ったんです。それはもう鮮やかでした。暴力ではなく言葉であっさり解決してしまったのです。それからですね、私がお姉様と呼んで追いかけ回すようになったのは……」
そこで、先ほど自分で淹れた紅茶を飲むルーン。私はパイプに火を付ける。
「ほぅ、あのエリナにそんな器量があったとはな……」
私は初めて口を挟んだ。
「基本的に私たちポンコツコンビですしね。気が合うんですよ」
小さく笑うルーン。ふむ、自分の事をポンコツと呼べる奴はポンコツではない。合格だ。
「して、変な事を聞くが恋愛感情は? 私は偏見はないが、色々とやりにくいかと……」
「あはは、先生殿。気を回し過ぎですよ。頼りにはしていますが、そういう感情はありません。からかうと面白いですけどねぇ」
なかなかやるな。ルーンよ。
「それより先生殿、なんで強いのですか? 身体能力はまさに猫並みなのでまだ分かりますが、魔法がない世界からきたと聞いています。スリーSクラスなんてもはや賢者ですし、召還術だってSクラス。普通に考えて超弩級の猫ですよぉ?」
……それが分かれば、私も苦労はしないのだがな。
「能力のクラス分けなど、人間が勝手にやっていることで私には関係ない。ただ、自分でも分からん。こちらの世界に来て普通に喋れるし、魔法や召還術とて勝手に使えるようになった。色々な術は勉強したがな。それ以外特にやった事はない」
私はパイプを吹かす。1番分からないのが自分の事だ。
「なるほど……これは王宮への報告に手間がかかりますねぇ」
やはりそんなところか。ルーンの笑みを見る限り、私が見抜いていたことは察していたらしい。
「あっ勘違いしないでくださいね。これは国王様の命ではなく、王宮魔道師の長が独断でやっていることで……。それと、私はあくまでも監視して報告するだけです。なんの邪魔もしませんし、一緒に行動してやるべき事はやります!!」
……残念だな。それを知ってしまった。その事がすでに邪魔になるだよ。
「待たせたな。国王。そういうことらしいぞ?」
私の背後から、そっと国王が現れた。ルーンが気絶している間に、こっそり召喚しておいたのだ。
「こここ、国王様!?」
敬礼すら忘れ、ルーンは紅茶をぶちまけた。
「いや、大した事じゃない。こんな夜中に召還するから、何事かと思えば……やはり、アルフレッドか」
「どどど、どうしてここに!?」
ある意味、私のとっておき召喚獣を見て、ルーンが完全に自身を失っている。
「ああ、簡単だ。先生殿とわしは召喚契約を結んでいる。それで、呼ばれたのだ」
「国王様を召喚する召喚術士なんて、過去現在未来聞いた事ないですよ!!」
……ここにいる。それだけだ。
「それで、ルーンよ。今をもって監視任務は終了だ。アルフレッドは更迭する。その上で、この一行についていきたければわしは止めぬ。エリナと同様の扱いとする。すぐに王宮に戻りたければそれでもいい。どうする?」
「私もどうしろとは言わぬ。お前が自分で決めてくれ」
国王と私に問われ、ルーンは尋常ではない汗を掻き始めた。そして……。
「……このまま残ります。王宮に籠もっているより勉強になりますから」
ルーンの出した答えはそれだった。
「ファイナル・アンサー?」
いきなり国王が妙な事を口走り、ルーンの目を見つめた。その眼光は……私ですら怖い。これが、一国を守る王の目か……。
「えっと、あっとその……ファイナル・アンサー!!」
そのまま黙って、ルーンの目を見つめる国王。ルーンは身じろぎもせず、むしろ襲いかかるような視線を返している。教えてくれ。流行っているのか、これ?
「……分かった。お主の覚悟が見えた。半年間好きに行動するがいい」
恐ろしく長いタメを作ったあと、国王はいつもの柔和な顔に戻った。
「ふぃぃぃ」
力を使い果たしたのか、ルーンはその場に崩れ落ちた。
「いつもすまんな国王。また何かあったら呼ぶ」
「ああ、出来るだけ起きている時にしてくれよ」
私は国王を帰した。
「こ、国王様を呼び捨て……」
ルーンよ。そこは問題ではないぞ。
「本当に良かったのか? 我々の旅はまともに進んだことがないのだぞ?」
最終的にはゴールに着くが、予定通り済んだためしがない。
「色々と聞いていますが、だからこそ残ったんです。旅といえば冒険、冒険といえばスリル!!」
……帰れ。今すぐ。
「はい、冗談です。お姉様が心配なんですよ。なにせところにより一時ポンコツですからねぇ。もし死んだら、蘇生術士がいなくなってしまいます。さすがに、自分の蘇生は出来ないでしょうからねぇ」
音量抑えめに結構酷いことをいうルーン。まあ、下手に友情とか愛情とか言う奴よりは信用は出来る。
「全く、アネゴ思いの妹分だな。さて、ゆっくりするか。
私は吸いかけだったパイプを吹かした。ちなみに、マタタビもキャットニップも私には効かない。好む風味ではあるが、いわゆる「マタタビダンス」を踊る事はない。至極の悦びと聞くが全く残念だ。
「なにか、パイプ片手にした先生殿は、凄まじく大物に見えますなぁ」
私の隣にちょこんと座り、ニコニコしているルーン。ふぅ……。
「お前はいつも明るいな。でも、それは本心ではない。今私の隣に座っている時ぐらい、荷物を降ろしたらどうだ?」
こんなもの注意して見れば分かる、ルーンの作った「人格」など。
「あいたー、またバレましたか……」
急速にルーンの表情が変わる。なんとなく暗そうな少女だ。
「無理しないとこうなってしまうんですよ。陰気で人嫌い。友人も数える程しかいません。私なんて、なんの華もないですからね」
……暗い。が、これがルーンの正直な性格か。
「華など腐るほどあるではないか。無理して明るくする事もない。それでは生きているのも辛いだろう」
どうにも窮屈な奴だな。
「素のままというのも辛いですよ。ですから……私は明るくノーテンキな馬鹿なのです!!」
……よかろう。これ以上は何も言うまい。
「まっ、私はあのポンコツ一号の使い魔で、ポンコツ二号の様子を見ながら、ポンコツ三号と死闘を繰り広げるわけだ。いっそまとめて私の召喚獣にでもならんか? 暇つぶしになりそうだ」
もちろん冗談だが、私はそう言って笑った。しかし、これがまずかった。
「えっ、召喚獣ですか!? 素敵です!!」
……おいおい。
「その話し、私も混ぜて貰おうか」
まるでゾンビのごとき動きで、エリナがテントから出てきた。そして、ブリッジしてカサカサ地面を歩き回る。
「なんだこれは……」
「ああ、また寝ぼけちゃって……」
……寝ぼけてるのか。これ?
「それで、あのキモイ様はどうでもいいので、ぜひ召喚獣に……」
「冗談だ。好き勝手に呼ばれるんだぞ。国王は好き者だったようだが、普通は耐えられん。その代わり友達でどうだ。少ないんだろ、猫でも頭数に入れておけ」
尻尾を1回ブンと振ってから、私はルーンに言った。
「ト・モ・ダ・チ……」
ルーンが固まった。そして、盛大な花火が上がる。他に誰もやりそうにないので、自分でやっているようだ。
「どうした、猫じゃ嫌か?」
私は苦笑しつつ聞いた。全く、こういうところがポンコツなんだな。
「うーん……。あれ、みんなどうしたんですか?」
まあ、ちょっとしたパーティーだな。これは。
「なんでもない、ポンコツ二号と三号が寝ぼけているだけだ。お前はもう寝たのか?」
アリスはうなずいた。
「はい、私は休みましたが……なんの騒ぎですか?」
「さぁな。じゃあ、あとは頼んだぞ」
「頼んだって……なんですか? これは……」
ボサボサの髪の毛を手ぐしで直しながら、アリスは聞いてきた。アホ臭くて話したくもない。
「なあ、アリス。お前は友達いるか?」
「えっ、いますけど。それが?」
アリスはわけの分からない様子で答えて来た。
「なら大丈夫だ。この騒ぎに取り込まれる心配はない。じゃあ、少し休ませてもらうぞ」
「ええっ、ちょっと!!」
アリスは放っておいて、私は適当な寝袋に潜り込む。なにか、無駄に疲れた……。ウトウトしかけた時、私はいきなり叩き起こされた。
「なんだ、ポンコツ三号か。どうした?」
当然、あしらいも冷たくなる。こっちはまどろんでいたのだ。
「はい、ポンコツ三号です。名前も捨てます。犬と呼ばれても構いません、友達になって下さい!!」
……卑屈になりすぎだ。ルーンよ。
「あのな、そういうのは友達と言わん。お前が私の事を友と思うだけだ。私はすでに思っている」
……全く、睡眠を妨げおって。猫は寝るためにあり。
「最強の友達が出来ました。今日はいい日です」
「分かったら寝ろ。また三時間後に起こされるぞ」
全く、深夜に騒ぎおって……。
「ところで、エリナは?」
「向こうがどう思っているか知らぬが、私は友と思っている。もっとも、アリスの方に懐いているようだがな」
全く、ここまでポンコツ揃いだと笑えてくる。王都にいくだけでこの騒ぎだ。先が思いやられる。
「さて、寝るか。友よ」
「はい!!」
私の隣の寝袋に潜り込み、ルーンがさっそく寝息を立て始めた。この寝付きの良さは驚嘆に値する。あれだけ騒いでいたのに驚きだ。
「全く、やっと静かになった。やれやれ……」
私はまたウトウトを再開する。猫が寝る時間は一説には一日一八時間という。つまり、寝ている時の方が多いのだ。やる事があればやるが、なければ寝る。そういう生き物だ。
珍しく寝付けなかったので、なんとはなしにテント外の声を聞いてみる。元々うるさかったので、嫌でも聞こえてくると言うべきか……。
「えっ、先生をくれ? ダメですよ。私の使い魔であり、大事なパートナーなんですから。いや、召喚術を覚えるって……大変ですよ。それに、使い魔が猫とは限らないですし。蘇生術があるじゃないですか。いや、いいんですよ。暇なのは平和な証拠です」
……まだやっていたのか。下らん。
私は本格的に眠るため、耳を音から背けるため後ろに向けた。これで聞こえにくくはなる。私は眠りの奥に落ちて行ったのだった。
「さて、今日は王都まで一気に突っ走ります。トイレ以外は止まりませんのでご注意を!!」
アリスの元気な声と共に、馬車は行気負いよく走り始める。アリスの見立てでは、今日の夕刻までには着くだろうとの事だった。今日の天気は雪。視界が悪いが大丈夫だろうか?
そんな一抹の不安を乗せ、私たちは1つ目の村を高速通過したのだった。
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